吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 

 ここまでくると物真似大会か。伝記映画の評価が本人に似ているか(似せたか)どうかで左右されていいのだろうか? 巻頭、老いたマーガレット・サッチャーが登場するシーンは、本人が映っていると思い込んだほど似ていた。しかし、よく見るとこれはメリル・ストリープの演技なのだ。怖すぎる。ここに始まって最後の最後まで、物真似選手権のようにメリルの怖すぎる演技が続く。
 二作続けて伝記映画を見て気づいたことは、女優の演技力がどれだけ優れているかよりも、やはり描かれている人物がどれだけ魅力的かで映画の魅力も決まるということ。


 「マリリン 7日間の恋」のマリリン・モンローとマーガレット・サッチャー。どちらに惹かれるのか? それはその人の生き方にもよるのだろうけれど、鉄の女と繊細で不安におびえる愛らしいマリリンと、どちらが魅力的か、ということ。と同時に、二人の女はどちらも才能に甘んじることなく努力を怠らない人であった。おそらく、家族の愛を犠牲にし、「ママ!」と追いすがる娘を振り払って仕事に赴く鬼母の24時間戦う姿のほうが毅然とした魅力があると感じる人もいるだろう。


 老いて認知症を患うサッチャーは、亡き夫の亡霊を見る。始終彼女は亡霊と対話している。そして、回想シーンでは、頑固できつい女が居並ぶ閣僚を面罵する場面が映る。自身は下層階級から成り上がった秀才であったサッチャーは、上流階級出身の閣僚たちの「脇の甘さ」が我慢ならない。閣僚達の面前でサッチャーに意地悪く痛罵される一閣僚は辞表を提出する。その場面の鬼気迫る状況には思わず眼が覚めた。いや、正直いうと、かなりの部分を寝てしまった本作なのだが、その場面は妙に眼が冴えた。「鉄の女」は鋼鉄の意志で財政支出を削り、図書館などの公共施設を潰し、公共セクターの民営化を進めた。まさに新自由主義政策の強烈な推進者だったのだが、彼女の政策には同意できないわたしですら、「何もかも政府のせいにする国民をこれ以上甘やかすの? 道路が汚れているのも、ゴミがあるのも全部国のせい。自分たちの責任など棚上げで、ひとのせいにする。そんな国民ばかり」(大意)とまくしたてる彼女の言葉には一理あるとうなずいてしまう。
 
 老いてすべてが夢のようになってしまったサッチャーにとって人生はなんだったのか、亡霊と対話する彼女の胸のうちはいかばかりなのか。残念ながら、女優のすさまじい演技にもかかわらず、その人物の内面に迫っているとはおもえない脚本であり、なによりもサッチャーその人に魅力が感じられないために、ほとんど寝ていたという不始末であった。

THE IRON LADY
105分、イギリス、2011
監督: フィリダ・ロイド、製作:ダミアン・ジョーンズ、製作総指揮:フランソワ・イヴェルネルほか、脚本:アビ・モーガン、音楽:トーマス・ニューマン
出演: メリル・ストリープジム・ブロードベント、オリヴィア・コールマン