吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

第九軍団のワシ

 男の世界。女がほぼ登場しないという点では「アラビアのロレンス」並みか。

 紀元140年のローマ時代のイギリスが舞台の物語。今でいうスコットランドがほとんどの場面なので、空は陰鬱に曇っている。スコットランドはカレドニアの高地でロケされた映像はまさに重厚かつ厳しく、見ているだけで寒々しくも辛い。いまどきよくこんな風景が残っていたものだと感嘆する。ロケの拠点はグラスゴーだという。最近、グラスゴーを舞台にする映画に縁があるので、あの暗い空にはなじみがある。と言いつつ、やっぱり鬱陶しいことこの上なし。

 紀元120年に忽然と姿を消したローマ軍5000人の兵士と、旗印の黄金の鷲。鷲を失い、5000の兵を失った将軍アクイラは「死後」も不名誉に晒されていた。そもそも、死んだのかどうかさえわからない、軍団の最期。その息子マーカス青年は父が消息を絶ったブリタニアへの赴任を自ら志願し、新人指揮者として着任した。彼は謎のままになっている父の最期を知りたいと思い、また、父の汚名を晴らすために志願したのである。しかし、ある夜、「原住民」に砦を襲われ負傷したマーカスは名誉除隊となる。失意のマーカスは、自らが命を助けた奴隷エスカを従えて再びブリタニアにやってきた。父の汚名を雪ぐために…


 という、ハードボイルド古代戦史もの。ひたすら空が暗い。陰鬱。全編ロケにもかかわらず、壮大感がなく、ひたすら逼塞して息苦しい。大スクリーンで見ている爽快感がないというのはいかがなものか。同じ戦争映画でも、スピルバーグの「戦火の馬」は実に爽快で雄大で、これぞ映画!という見世物感にあふれていたというのに、この映画は正反対だ。一つには、舞台が陰気なスコットランドであること、さらにそのスコットランドでもいっそう陰鬱で深い森が残る高地であること、その上、古代ローマ最大の謎とかいいながら、ちっとも謎でもなんでもなく謎解きの面白さが一切ないこと等々、映画の醍醐味に欠けるのがよろしくない。

 とはいえ、逆にその醍醐味のなさが、撮影の重厚さを生む。矛盾したことを書いているようだが、撮影が素晴らしかった。手持ちカメラが揺れるのが少々見づらかったのだが(だから途中で疲れて少し寝てしまった)、この薄暗さがなんともいえず当時の「蛮族」の未開ぶりを表していて雰囲気がいい。蛮族の野蛮未開たるや、ハンパじゃないので驚いてしまった。なんですか、これは。ローマ人にとって古代のブリタニアやカレドニア(要するに今のイギリス)は野蛮以外のなにものでもなかったのだろうな。

 冒頭、「男の世界」と書いた件、これは忠義な奴隷と主人との「友情」物語でもあるわけで。命の恩人への恩義を忘れない奴隷という気高さが描かれている。しかも奴隷といっても元は高貴な血筋の誇り高い子息である。どこかで見たことあるかも、と思ったら「リトル・ダンサー」のジェイミー・ベルくんではないか。すっかり成長して立派な青年になっております。

 最後は「続編あり?」と思わせる台詞。こういう終わり方はこの映画の雰囲気を壊すような気がするのはわたしだけではあるまい。せっかくのスコットランド映画なのにハリウッド映画みたいに終わっていいの?

THE EAGLE
114分、イギリス/アメリカ、2010
監督: ケヴィン・マクドナルド、製作: ダンカン・ケンワーシー、原作: ローズマリ・サトクリフ、脚本: ジェレミー・ブロック、撮影:アンソニー・ドッド・マントル、音楽: アトリ・オーヴァーソン
出演: チャニング・テイタムジェイミー・ベルドナルド・サザーランドマーク・ストロング、タハール・ラヒム