吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

汽車はふたたび故郷へ

 隣席のおじさんが全編の半分ぐらいは鼾をかいていた。わたしも四分の一くらいは寝た。それくらい、余りにも淡々とした、何も主張しない映画。しかしその実、映画作りに込めた監督の意固地なまでの自己主張は強烈に漂ってくる。

 グルジア映画は初めて見る。そもそもイオセリアーニ監督の作品は見たことがない。この作品はコメディにジャンル分けされているが、笑うようなところはどこにもない。いや、うっすらと苦笑してしまう場面はいくつかある。それはもう、すっとぼけた感覚であり、わたしたちが知っているコメディとは質の違うものだ。

物語の大筋は…。グルジアの青年ニコは映画監督となって作品を撮り上げるが、当局の検閲にひっかっかって上映禁止となる。投獄されたり暴行されたりの挙句、自由に映画を作るためにフランスへと渡ったニコだが、今度はプロデューサーたちに映画をズタズタにされてしまい、やっと完成した作品は観客にまったく受けない。失意のうちに故郷に帰るニコ、彼には社会主義も商業主義も映画の邪魔者でしかなかった。故郷でピクニックに興じるニコには、現実逃避のファンタジーが…。
 といった話が淡々と緩慢に進み、しかもほとんど台詞がないので行間を読んでいくしかない。リズムの悪さや登場人物の説明不足などが積み重なり、見ていて楽しいと思える映画ではまったくない。唯一ユーモラスなのは、ニコが撮影している映画。モノクロ・サイレントで上映されるこの映画のユーモラスな場面に思わず笑ってしまいそうだが、その白々しく漫画的な演出に、映画の中の観客も退屈している。その場面がまた可笑しかった。

 結局、映画人が思う存分映画を作ることができる環境はどこにも存在しないのだ。夢破れたニコの魂はファンタジーの世界をさまよう。もう、ここにしか安らぎはない。ラストシーンがそこはかとなく悲しく、そしてなおも細い希望を失わない諧謔に満たされている。 

 最後のピクニックシーンをみて、「いいなぁ、釣ったばかりの魚を焼いて、野原で食べるなんて」とほのぼのした。いや、それは映画の言いたいことと違うって? いいんじゃないの〜。

CHANTRAPAS
126分、フランス/グルジア/ロシア、2010
監督・脚本: オタール・イオセリアーニ、音楽: ジャルジ・バランチヴァゼ
出演: ダト・タリエラシュヴィリ、ビュル・オジエピエール・エテックス