吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

ピアノマニア

「働く姿を描いて感動的な映画」の一つ。

 ピアノ調律師のドキュメンタリーというのは初めて見る。繊細な仕事であろうことは想像に難くないが、ここまで緻密な仕事をしているとは驚きだ。しかも体力勝負の部分もあるので、これは大変だと一目でわかる。スタインウェイ社のドイツ人調律師シュテファン・クニュップファーに1年間密着取材したドキュメンタリーによって調律師の仕事が初めて世に大々的に知られたのではないか。

 ピアノじたいが繊細な楽器なので、少しでも移動させると調律が必要になる。調律は音程を合わせているのかと思っていたが、調整しているのは音程や鍵の固さだけではなく、残響の長さ、艶、音色の色合いに至るまで徹底的にマネジメントしているのである。ピアニストに合わせて椅子まで用意するのだからその気配りたるや途方も無いものがある。

 クニュップファーはフランス人ピアニストのピエール=ローラン・エマールとともに、1年後の録音に向けて入念な準備に取り組む。登場するピアニストは他にラン・ランやアルフレート・ブレンデルら、さらにはクラシック音楽コントのコンビも。多彩な依頼人を相手に、クニュップファーは軽やかにプロの仕事をする。

 カメラの動きがいい。ピアノに接近激写、鍵盤の上下動を見事に描きとり、クニュップファーの大アップとともに微細なピアノの裏世界を、あたかも昆虫を追う拡大レンズのごときに接写してみせる。

 ピアニストが要求する音を再現するために、何度も何度も調整を繰り返すクニュップファーだが、「これではダメだ」とダメ出しされた音と、「よし、その音だ」とOKの出た音の違いがわたしにはさっぱりわからない。 ここまでの職人芸になると素人にはまったく手出しのできない理解を超えた会話が展開する。クニュップファーが相手をするピアニスト達はさまざまな言語を母語に持つ。彼らはドイツ語や英語を駆使して瞬時にわかりあえるようなのだ。さすがは国際的アーティストは違う。グローバリズムが進む音楽の世界では英語が出来るのなんて当たり前なのだ。

 プロの矜持を見るのは気持ちがいい。その仕事ぶりも気持ちがいい。大変な仕事を軽やかにこなし、しんどそうにしながらも笑顔を絶やさずユーモアを忘れない。これが仕事人というものだ、見習いたい。

 途中で息抜きのように登場する音楽コントがケッサク。

PIANOMANIA
97分、オーストリア/ドイツ、2009
監督: ロベルト・シビス、リリアン・フランク
出演: ピエール=ロラン・エマール、シュテファン・クニュップファー、ラン・ラン、アルフレート・ブレンデル、ジュリアス・ドレイク