吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

TIME/タイム

 近未来、通貨の変わりに「余命時間」が流通し、余命時間が無くなれば直ちに人は死にいたる、という世界を描く。遺伝子操作によって25歳以上歳を取らなくなった人類は、25歳以後の余命を得るために働くこととなる。富裕層は無限といってもいい時間を手に入れ、貧乏人はその日暮らしの命が尽き果てるときを恐怖で迎える。文字通り日銭稼ぎで明日までの命をしのぐ日々だ。

 という、発想は面白かったが、アイデア倒れ。そもそもこの世界のシステムを説明する緻密な理論が存在しない。だから、全人類が25歳までで外見上の歳を取らないという不気味さを特に富裕層の社会で見せたことは映像的には面白かったが、後が続かない。

 この世界が富裕層とスラム社会とに明確に二分され、居住地もゲートで区分けされているにもかかわらず、スラムの人間たちは富裕層に対して革命をしかけない。それどころか、富裕層に対するルサンチマンを同じスラムの人間に向けて、互いに残り少ない寿命を奪い合う悲惨な状況を呈している。富の格差が直ちに寿命につながるというのは究極の格差社会だ。実にわかりやすい。

 アマンダ・セイフライドの眼が大きすぎて気持ち悪い。狙ってメイクしているんだろうけど、ケバい化粧で宇宙人みたいな顔になっていてとっても不気味。人間ばなれしているところが近未来の人間ぽくて面白い。一方、スラムの人間はとっても「人間らしい」。

 登場人物全員が25歳のはずなんだけど、キリアン・マーフィは25歳に見えません〜(笑)。全員25歳ということはお母さんもおばあちゃんも外見上は25歳だから、まったく区別がつかない。フラットな社会って気持ち悪いということがよくわかる。しかも、25歳という外見上の公平さに比べて、寿命の格差がハンパじゃないから、アンバランスな世界のアンバランスさがいまいちピンとこないように仕組まれている(ような気がする)。この世界全体の構造がよくわからないため、どうすればその社会を転覆させて革命が起こせるのかも観客にはわからない。おそらく脚本を書いた時点であまり深い考えがなかったのだろう。「寿命格差」という秀逸なアイデアだけで突っ走って、細部はおざなりという点がいただけませんでした。「時間バトル」なんて何をやっているのかわからない、面白くもなんともない「指相撲」の世界。笑ってしまいました。

 それでも、過去の様々な映画からの引用が多く、それなりに面白いので退屈はしない。主人公男女二人組の強盗は「俺達に明日はない」、時間監視員の雰囲気は「リベリオン」、スラムの人間たちの全力疾走はトム・クルーズ走りみたいだったし、「どこかで観たことあるなぁ」という既視感に溢れていた。

 格差社会を変える力は英雄の頑張りに拠るという発想はやはりアメリカ的だとつくづく感じるラストシーンだ。

IN TIME
109分、アメリカ、2011
監督: アンドリュー・ニコル、製作: エリック・ニューマン、マーク・エイブラハム、製作総指揮: アーノン・ミルチャンほか、音楽: クレイグ・アームストロング
出演: ジャスティン・ティンバーレイクアマンダ・セイフライドアレックス・ペティファーキリアン・マーフィヴィンセント・カーシーザーマット・ボマーオリヴィア・ワイルド