吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

すべて彼女のために 〜ラスト3デイズ〜 ;  スリーデイズ

 今回は珍しく、オリジナル作品とリメイク版を同時に取り上げる。オリジナル作はビデオタイトルを「ラスト3デイズ すべて彼女のために」としてリリースされた。

 さて、オリジナルはフランス映画。まさに彼女(妻)のためにすべてを捨てて、命も懸けて救おうとする男の壮絶な物語。ハリウッドリメイク(なんと、ポール・ハギスで)が上映される前に予習のために鑑賞した。

 うちの長男Y太郎(大学2年)が「この映画は最後の30分のためにある。そういうふうに狙って作っている映画はよくない。この場面が撮りたいとか、ここに話を持っていくために他の場面がある、みたいな作り方はダメ」と言っていたが、その割には面白がって見ていた。

 物語は…。美しい妻リザと赤ん坊の一人息子と三人暮らしの国語教師ジュリアンは、愛情溢れる幸せな生活を営んでいた。しかしある日突然妻が殺人の疑いで逮捕され、その幸せは粉々に吹き飛んだ。無実を訴える妻であったが、3年をかけた裁判では不利な証拠ばかりが提出され、禁固20年の刑が下る。精神的に不安定になり自殺を図る妻を見かねたジュリアンは、彼女を救い出すために捨て身の計画を練る。なんと、リザを脱獄させようというのだ。果たしてジュリアンの計画は完遂できるのか…!

 という、「ショーシャンクの空に」みたいな映画。果たしてショーシャンクになれるのか。


 この映画が説得力を持つためには、すべてを捨ててもいいと思えるほど妻が魅力的であり、妻との生活が幸せであったことが描けていないといけない。その点、ダイアン・クルーガー演じる妻が余りにも美しいので映画的には納得か。夫ジュリアンが妻に比べると随分老けているようだが、ヴァンサン・ランドンが渋くて大変よろしい。こういう渋さが分かるのは大人の観客だ。リザが夫の頬をなでながら「ハンサムね」と微笑むシーンが印象的。ちっともハンサムに見えない夫に「ハンサム」という台詞、いかに妻が夫を愛しているかがよくわかる場面だ。

 後半、まさに最後の怒涛の30分でジュリアンは教師としてのアイデンティティを捨て、妻のために悪の道を突っ走るアウトローと化す。息子との生活、老いた両親への気遣い、そういった、家族への愛情もしみじみと描かれ、少ない台詞の作風は乾いた印象を受ける。ハードボイルドな作品の割には途中で少しだれて眠くなったりするが、これをハリウッドリメイクしたくなる気持ちは分かる。(レンタルDVD)

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  • POUR ELLE
  • 96分、フランス、2008
  • 監督: フレッド・カヴァイエ、脚本: フレッド・カヴァイエ、ギョーム・ルマン、音楽: クラウス・バデルト
  • 出演: ヴァンサン・ランドン、ダイアン・クルーガー、ランスロ・ロッシュ、オリヴィエ・マルシャル、アンムー・ガライア


 そして続いて、リメイクの「スリーデイズ」を。
 最初はオリジナルとほとんど変更点がなく退屈だったけど、最後は怒涛の展開。オリジナルよりポール・ハギス版のほうがひねりあり。これなら、オリジナルを見る必要なし。

 オリジナル版よりも上映時間が30分以上長い分、後半の展開ぶりがサービス精神に満ち溢れている。すれ違い、行き違いによって観客をハラハラさせ、妻を脱獄させるための手はずも手が込んで慎重になっている。アクションももちろんド派手さを加える。
 ただ、一番違うところは結末。ポール・ハギスはオリジナル作のこの結論に納得できなかったのだろうな、と思う。そうでなければリメイクする必要がないのだから。

 何がなんでも彼女を救うのだという強い愛情をかけるほどの妻であるかどうかが一つのミソなんだが、オリジナルのダイアン・クルーガーが美人妻ぶりを振りまいていたのに対して、リメイクのほうはエリザベス・バンクスというダイアン・クルーガー似の女優を対抗馬に出してきた。エリザベスも確かに綺麗だけれど、ダイアンには負けるのである。しかし、夫が妻に惹かれるのは見た目の美しさだけではあるまい。やはりその知性や品性が問題であり、その点、ポール・ハギスは巻頭のさりげない台詞と服装で妻の品位や生々しい感情を描いているのはさすが。一方、主人公の平凡な教師役にラッセル・クロウというのはいかがか。平凡な教師に見えないし(笑)。

 どんな手段を使ってでも愛する妻を救うというのは倫理的にどうなんだ、もっと真っ当に裁判で闘えないのか、とかいろいろ思うところはあっても、こんなに怒涛の勢いで脱獄計画を実行に移されたら、倫理観などすっとんでしまう。ラッセル・クロウがドジを踏む場面での手に汗握りぶりなど、ほんとうに飽きない展開で、かなりお奨めです。

 でも繰り返しになるけれど、あのラストはどう解釈すべきだろうか。オリジナル版でわたしも一番気になったところだったのだが、ポール・ハギスもそこを放置することはできなかったのだろう。だから、社会派監督としては落とし前をつけたい。つけたいけれど、やっぱりポール・ハギスだから、そこはそれ、そんなに簡単に白黒をはっきりさせてあっけらかんとしたハッピーエンドには持っていかない。そこが歯がゆいといえば歯がゆく、後を引く面白さともいえるし、中途半端とも言える。どうにでも受け止められるような結末なので、観客それぞれにいろいろ楽しんでいただけるのでは。