吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

カンパニー・メン

ginyu2011-10-27
 奇をてらったところのない、素直な作品。アメリカの解雇事情は「マイレージ、マイライフ」にも描かれていたように、日本と比べて極めて冷酷で大胆に行われる。勤続30年の労働者に対しても情け容赦なく、解雇の理由も告げずいきなり「あなたの仕事がなくなりました。2時間以内に荷物をまとめて退去してください」と。この映画は、そのようにしていきなりリストラされた会社人間たちの物語である。

 会社人間! それは「社蓄」という造語まである日本だけのことかと思ったら、もともと英語だったという。この映画で大規模なリストラを行う会社は造船業から始めて多角経営企業へと発展したGTX社。リーマンショック以降の業績悪化を受けて、経営者は「会社は社員よりも株主に対して責任がある」と堂々と言ってのけ、5000人ものリストラを断行して株価を吊り上げる。創業者の一人である副社長ジーンは、利益のみを追求し株価の吊り上げ抱けを狙ってものづくりの心を忘れた社長に厳しい目を向ける。
 主人公ボビーは年収12万ドル以上を稼ぐエリート社員で、新しい豪邸に住み、ポルシェに乗って趣味のゴルフを楽しむエリートサラリーマンだ。いきなりリストラされたボビーは自分が失業者であり打ち捨てられた人間であることに我慢がならない。彼の自尊心は傷つくが、一方で高いプライドを捨てることもできない。
 一流企業のエリートサラリーマンで高い年収を得ることが生きがいだった人間の鼻持ちならなさをベン・アフレックはうまく演じている。こんな高慢ちきな男、鼻をつまんでやりたくなる。この映画は虚業に走るアメリカ企業のあり方に批判を向ける社会派作品であるのだが、どう考えても男にとって都合のいいようにお話ができている。ボビーの妻マギーがよくできたもので、どんなことがあってもボビーを見捨てないし、常に彼を支え続けて文句ひとつ言わない。わたしならあんな鼻持ちならない男は願い下げだと思うけど、マギーというのは男の理想、男の夢をかなえてくれるような女性だ。副社長ジーンは人格者として描かれているが、実は浮気していて、しかも悪者は浪費家の妻である。また浮気相手の女性もリストラの尖兵である。女性はほぼ4人しか登場しないが、マギー以外の女はみな人間的に問題があるように描かれているのはどうもすっきりしない。

 そもそもこの映画を見ようと思ったのはケビン・コスナーが出演しているからなのだが、彼の役はブルーワーカー。アメリカの大工は左官屋も兼ねているのか、ケビン・コスナーがしっかり肉体労働者になりきっているので驚いた。壁塗りなんてうまいもんだし、だいぶ練習したのではなかろうか。最近地味な役が多いケビン、「ボディガード」のころのかっこよさがないけれど、それはそれでまあ良しとしよう。ケビンが男前のいい、なかなか美味しい役どころをもらっている。

 結末については予想通りとも言えるし、逆に予想外とも言える。ボビーが根本的に発想や生き方を変えるのかどうかが微妙、というあたりが現実的な落としどころをわきまえているといえようか。そういう意味では不満が残る。

THE COMPANY MEN
104分,アメリカ、2010
監督・脚本:ジョン・ウェルズ、製作:クレア・ラドニック・ポルスタインほか、製作総指揮:バーバラ・A・ホール、音楽:アーロン・ジグマ
出演:ベン・アフレッククリス・クーパーケヴィン・コスナーマリア・ベロローズマリー・デウィット、クレイグ・T・ネルソン、トミー・リー・ジョーンズ