吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

再会の食卓

 分断国家の悲劇を描いた物語。上海を舞台とする一家族の苦悩は、食卓でのご馳走をみんなが囲むことで描かれる。実に美味しそうな心づくしの料理が並ぶ。一つ一つの料理に込められた気持ちが痛いほど嬉しく悲しい。

 国共内戦によって引き裂かれた夫婦が40年ぶりに出会う。それぞれ新しい家族を作り、子や孫に囲まれているのだが、台湾へと逃れた元国民軍の夫は台湾妻に死なれた今、中国本土に残してきた妻に会いたい。その一心で上海までやってきた。上海では妻は別の男と結婚して幸せに暮らしている。上海の一家に歓待された夫は、「妻を台湾に連れて帰りたい」と言い出し、なんと驚くべきことに上海の夫がそれをあっさりと承諾してしまう……。

 40年も忘れたことのなかった夫との再会。そして目の前に突然現れたその夫と手に手をとって出奔しようという妻、という話なら、そう、「ナビィの恋」ではないか! 長年連れ添った夫婦の静かな情愛よりも、かつて熱烈に愛した男への愛のほうが深いというのはある意味衝撃的だ。人間いくつになってもやり直せるし、失ったものは取り戻せるという希望に溢れた作品だと感動しながら見ていた。

 しかししかし、そんなにことが簡単に運ぶはずがない。なんで上海の今の夫がそんなに簡単に妻を手放すのか理解に苦しむと思っていたら、やはりこの夫が胸に詰め込んでいた言葉の数々を吐露する圧巻の場面が。


 離婚するためには結婚しないといけないという笑い話のような意外な展開があったり、変わり行く上海の街並と変わらない愛情との対比をさりげなく映し出す淡々とした映像が魅力的だったり、何よりも食卓を飾る料理のおいしそうなことと、その料理を心尽くして作る人の胸中の複雑さに思いを馳せる心にくい演出とか、見所の多い作品だ。

 ただし、時代が1990年ごろのはずなのに携帯電話があったり上海タワーが映ったりと、時代考証にルーズなところが気になる。監督はそんなことは気にしていないのだろうか。

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APART TOGETHER
96分、中国、2010
監督・脚本: ワン・チュアンアン、製作総指揮: リサ・ルー、ピーター・ドナー、共同脚本ナ・ジン、撮影: ルッツ・ライテマイヤー、音楽: マー・ペン
出演: リサ・ルー、リン・フォン、シュー・ツァイゲン、モニカ・モー