吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

赤い靴 デジタルリマスター・エディション

バレエ映画を見たいなら絶対に「ブラックスワン」http://d.hatena.ne.jp/ginyu/20110724よりは本作がお奨め。ナタリー・ポートマンのバレエがすごいと感動したけど、肝心の部分はプロの代役だったし、あれに比べれば本作の17分のバレエシーンは圧巻。赤い靴を印象的に映像に刻んでいる撮影は素晴らしく、速いテンポの音楽に合わせて主役モイラ・シアラーが小刻みに足を捌く画面は鳥肌が立ちそう。それになんといっても、舞台のバレエをそのまま映しただけというような芸のないことをしていない点が素晴らしい。ちゃんと映画的な処理を施されたバレエ劇というのはおそらく本作がはじめてなのだろう。今となっては特段珍しい映像処理ではないが、ダンスシーンが幻想的でかつイメージの世界との融合を提示しており、まるで一幅のアートを見るような感激を味わった。

 物語のテーマは古典的で、「芸術をとるか恋愛をとるか」という二者択一を迫られたプリマドンナが悩みぬく、というもの。今でいえば、家庭をとるか仕事をとるかと迫られる女性労働者の悩みと同じ。ワーク・ライフ・バランスの現代にあってはこの悩みは男女共通のものであるはずなのに、いまだに同じことが女性の側でのみ繰り広げられるというのもいかがなものか。そもそも家庭と仕事が両立できないという強迫観念にとりつかれた時点でわたしたちは競争社会の論理に負けているのだ。……でも実際、両立しないよな〜。

 この「赤い靴」を巡っては誰かがどこかの本でフェミニズム的分析をしていたと思うのだが、どうしても思い出せない。誰がどこに書いていたのだろう? あー、思い出せないのは気持ち悪い。


 大時代がかった大げさな演出はいかにも昔の映画っぽい(日本の歌舞伎的)ので、今の若者がおもしろがるかどうかはわからない。いや、かえってこういう大仰な映画が面白いかもしれない。いずれにしても、バレエを堪能し、音楽を堪能し、赤い色の印象的な場面をデジタルリマスターの技術力で堪能するにはこれ以上ないという素晴らしさである。


 家父長的支配で団員たちに君臨するバレエ団長を演じたアントン・ウォルブルックが印象的。端正な顔立ちと貴族的な立ち居振る舞いでゴージャスな雰囲気を撒き散らす。

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THE RED SHOES
136分、イギリス、1948
監督・脚本:マイケル・パウエルエメリック・プレスバーガー、製作:マイケル・パウエル、撮影:ジャック・カーディフ、音楽:ブライアン・イースデイル
出演:モイラ・シアラー、アントン・ウォルブルック、マリウス・ゴーリング、ロバート・ヘルプマン
アルバート・バッサーマン、リュドミラ・チェリナ