吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

キッズ・オールライト

 見終わった後、釈然としない気分が残る。これはまったく新しい家族を描いた作品なのか、旧来の家族をそのままゲイカップルに移し替えただけのオーソドックスな家族物語なのか、どっちなんだろう?



 カリフォルニアに住む一組のレズビアンカップルとその子どもたちの家族を描く。ニック(アネット・ベニング、かなり老けたけど相変わらず上手い)とジュールス(ジュリアン・ムーア、体当たり演技を見ていると「ブギー・ナイツ」を思い出す。今回のベッドシーンでは胸を見せないのは歳をとったということか)という同性婚のカップルには、同じ精子提供者からの人工授精によってそれぞれ18歳の娘と16歳の息子がいる。一家は4人で穏やかに、そして時代の先端を行くゲイカップルの一家として中産階級の静かで豊かな生活を堪能していた。匿名の精子提供者である自分たちの実父を知った子どもたちは、親に内緒で会いに行く。その実父とは、レストランオーナーのポール(マーク・ラファロ、ユーモラスで温かみのあるいい味を出してる)。気ままな独身生活を楽しんでいたポールはいきなり現れた子どもたちに驚くが、彼らを暖かく受け入れる。しかしここから一家の生活には波紋が生じて……



 ゲイ・カップルに子どもがいる場合、その子どもたちの心境はいかばかりか。そんな、ストレート人間の好奇心をくすぐるようなテーマを設定したところがこの映画の斬新さであると同時に、底意地の悪い人間への挑発/挑戦とも取れる。リサ・チョロデンコ監督自身が同性愛者なので、彼女の細やかな視点が脚本と演出に生かされているのだろう、ゲイカップルの実態(の一つの局面)を丁寧に、そしてユーモラスに描いているところが興味深い。 

 ニックとジュールスの一家は、医者であるニックが財政を支えている。ジュールスは「専業主婦」であり、なんとか自分の仕事を手に入れたいと思っているが、うまくいかない。ゲイカップルでもやはり役割分業があって、どちらかが「男役」をしてしまう、ということはかなり前にゲイの高校教師平野広朗さんの文章を読んで知った。本作の場合は医者でインテリであるニックが家長として抑圧的な立場にある。彼女は家族に指令し、ジュールスが人として自立していないことをなじり、子どもたちの前に君臨する。この映画にいまいち魅力を感じなかったのは、アネット・ベニングが演じたニックというキャラクターに好感をもてなかったからだろう。アネットの魅力を引き出しているとは思えない。


 ジュールスがポールと浮気する場面は爆笑ものだが、このポールがかなり魅力的なので、ジュールスとうまくいけばいいのに、とつい思ってしまう。 

 結局のところ、ゲイの家族であっても「一夫一婦制」を守らねばならず、子どもはふつうに思春期を迎えて親に反抗したり自立への道の途中で立ち止まったりあがいたりし、「妻」は専業主婦である自分の殻を破りたいと思い、「夫」の承認を求める。こういう、ごく普通の家族像から自由になるわけではない。だからゲイの人たちでなくてもこの映画に共感を持つことはできるわけだが、わたしはもっとなにか新しく突き抜けた家族像を描いているのかと期待したらそうではなかったところにちょっとがっかりもした。しかし、やっぱりこれはどうにも理解を超えた家族像であることには違いなく…と、あれこれ思い迷いつつエンドクレジットを眺めていた。

 つまりは観客にもやもやとした宙づり気分を味わわせる力がある、画期的な映画なんだろう。

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THE KIDS ARE ALL RIGHT
107分、アメリカ、2010
監督・脚本: リサ・チョロデンコ、製作: ゲイリー・ギルバートほか、共同脚本:スチュアート・ブルムバーグ、音楽: カーター・バーウェル
出演: アネット・ベニングジュリアン・ムーアミア・ワシコウスカマーク・ラファロジョシュ・ハッチャーソン、ヤヤ・ダコスタ