吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ネスト

 ケビン・コスナー初のホラー主演! ホラーファンにはバカにされそうな映画だけれど、わたしは充分怖かったし、隣席の若いお嬢さんたちは二人で「怖い怖い」といちいち反応していたから、よかったのではないでしょうか。


 パンフレットを作成していないときいてショックを受けた。はじめからヒットしないという姿勢はいけません。



 「パンズ・ラビリンス」のイバナ・バケロちゃんの美しく成長した姿が見られたのが収穫。前半はホラーというより、思春期の娘に手を焼く父親(ケビン・コスナー)の苦悩の姿を描く家族もの。反抗ばかりする娘をイバナちゃんが小生意気に好演。悩んだ父親がすぐにwebでググって事例収集してしまうのも今風で、昔ならちゃんと相談できる相手がコミュニティの中にいたはずなのに、孤独な父が共同体から疎外されていることが描かれるシーンは興味深かった。というか、共同体のしがらみを断ち切ったところからこの父子一家は出直そうとするわけである。離婚後の父子家庭、いくら父親が作家だからって、わざわざ町から隔絶したド田舎の豪邸に住もうとする時点で彼は孤立を自ら望んでいる。こういう設定は「シャイニング」的で、ホラーの王道とも言えるのだろう。

 孤絶した場所で一家が出会う恐ろしい出来事、という状況設定は同じなのにこの映画が「シャイニング」のような怖さを持たないのは、恐怖の元凶を外部に置いたからである。「シャイニング」では壊れていく父そのものが恐怖の源であった。内部に巣くう狂気は何よりも恐ろしい。「ネスト」では、魔物は未知の生物であり、それは巣(ネスト)を作って密かに市民社会に触手を伸ばそうとしているのである。



 古代の墳墓の中に異形の者達が住んでいる、なんていうXファイル系のネタでホラーを作ったのはいいけど、問題はその「異形の者」の姿。エイリアン系の不気味悪いクリーチャーを見せてしまうのはどうかと思う。最後まで不気味なものの存在は隠しておくべきであった。それにしても衝撃のラストシーン。時間がなくなったのかネタ切れか(笑)。

 アメリカ人はすぐに銃を持ち出す。せっかく庭に埋めたのにわざわざ掘り返すのだから、全米ライフル協会が喜びそうなネタだった。銃を庭に埋めるシーンで「あ、これは後半に生きてくる伏線やね」と誰にでもわかるように撮ってしまうのもサービス精神の現れか。でも、どんな風に劇的に伏線が回収されるのかと期待したけど、肩透かし。ケビン・コスナーにすり寄ってくる女性教師が善人だけど美人じゃない、という時点で既に「お前はもう死んでいる」こともわかる。なんかわかりやすいなーと思っているうちに、ちょっと寝てしまったので、娘が「ネスト」(巣)に引きずり込まれた場面を見ていない。というか、そういう場面があったのだろうか?


 この「ネスト」の正体はわからない。先住民の墓ということになっているが、そうであるならば、古代の聖域に近づいてはならないという警告がこの映画の本筋である。たぶん。

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THE NEW DAUGHTER
108分、アメリカ、2009
監督: ルイス・ベルデホ、製作: ポール・ブルックス、原作: ジョン・コナリー、脚本: ジョン・トラヴィス、音楽: ハビエル・ナバレテ
出演: ケヴィン・コスナー、イバナ・バケロ、ノア・テイラー、サマンサ・マシス