吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

チョイス!

 ケヴィン・コスナーを久しぶりにスクリーン(「ネスト」http://www.facebook.com/nestmoviejp?v=app_7146470109)で見に行く前に、DVDでケヴィンに再会。出来心で見た映画だけれど、これは意外な拾い物。

 ケビン・コスナーが情けなくも薄汚い中年男を演じてファンをがっかりさせるのだけれど、最後はビシっと決めてくれるのが嬉しい。
 

 わたしのケビンが演じるのはぐうたら男バド、可愛く賢い娘モリーを男手一つで育てているけれど、ぐうたらが災いして失業者に。光熱費も払えないような貧しい生活なのに飲んだくれている毎日。ある日、賢いモリーは学校で選挙制度について発表し、その内容があまりに素晴らしいので地元局のキャスター(ポーラ・パットン)の目に留まり、テレビで放映されることになる。

 いっぽう、そんな娘とはうらはらに相変わらずバーでへべれけになっているバドは、モリーとの約束も忘れて大統領選挙(正確には選挙人選挙)の投票に行きそびれてしまう。だが、なんやかやとあって、バドは大接戦の大統領選挙の最後の1票を握る男になってしまうのであった。彼の投じる1票がアメリカ合衆国大統領を決めることになる。再投票までの1週間(10日だったかな)、民主/共和の両党候補は露骨な買収・抱きこみ合戦に打って出る。何しろ選挙戦のターゲットはただ一人、バドなのだから、両候補のしのぎを削るバドのご機嫌取り大作戦はヒートアップの一途をたどり…。


 とにかく笑える。アメリカ大統領選挙の仕組みをしらないとちょっとわかりにくいかもしれないが、そのへんは事前に予習しておくとして、この映画、まずは2000年のゴアvsブッシュの大接戦を想起させる。そして、この映画は笑ってみているうちに二大政党の政策の違いがよくわかる仕組みになっている。よくできた映画だ。バドは両候補にちやほやされてすっかり有頂天だが、娘のモリーはその様子を冷静に眉をひそめてみている。バカな父親と賢い娘という対比も鮮やかで、なんでこんな鳶が鷹を生むか不思議だが、候補者どうしのばかばかしい抱きこみ合戦の裏を操る選挙参謀の権謀術数といい、マスコミの過剰取材ぶりといい、皮肉が利きまくったコメディだ。


 さすがに政策論争もそっちのけのバド囲い込みが激しくなると、本人もこれではいかんと思い始める。そもそも男手一つでモリーを育てるハメになった原因にしても、妻が出て行ったからであり、その話のからみがほろりとさせる。


 最後の最後になってバドがいきなりしゃきっとしてスピーチを始めるシーンには背筋が伸びた。「JFK」でケビン・コスナーが演じたジム・ギャリンソン検事の長広舌を思い出す。


 笑って見ているうちに選挙の意味や政策について考えさせる、真面目な映画であったことに最後に気づく。前半のコメディタッチと後半のシリアスモードの落差が大きすぎて、もう少しコメディタッチのまま突っ走ったほうが面白かったかもしれないが、劇場未公開作なのが惜しい作品。(レンタルDVD)

                                              • -

SWING VOTE
120分、アメリカ、2008
監督・脚本: ジョシュア・マイケル・スターン、製作: ケヴィン・コスナージム・ウィルソン、共同脚本: ジェイソン・リッチマン、音楽: ジョン・デブニー
出演: ケヴィン・コスナー、マデリン・キャロル、ケルシー・グラマー、デニス・ホッパーポーラ・パットンスタンリー・トゥッチ