オゾンらしい作品。この人は女性賛歌を作らせたら面白いものを作ってくれる。カトリーヌ・ドヌーブに雨傘とくれば当然、「シェルブールの…」ですね。シェルブールへのオマージュともとれる話だけれど、雰囲気はまったく正反対の、明るく楽しいコメディ。
時代設定が1977年というのが面白い。あの頃のファッションや髪型も懐かしい。既に80年代に近いというのに、ヒロイン・スザンヌとその夫とは封建時代そのままのような夫婦関係を築いている。スザンヌは雨傘工場の経営者の娘として育ち、結婚して夫がその工場を継ぎ、それなりの成功を遂げた。今では悠然と退屈な日々を過ごす社長夫人だ。ヌザンヌを演じるのはすっかり太ってしまったカトリーヌ・ドヌーブだが、貫禄や華やかさは昔のまま。実に楽しそうにこの社長夫人を演じていて、清清しい。
で、その抑圧的な家長たる夫ロベールが急病で倒れてしまった。折りしも工場は労働組合がストライキに突入し、労組側は社長の代わりに夫人が団体交渉の場に出てくることを要求する。仲介を依頼した共産党市長ババン(ジェラール・ドパルデュー、かつての面影もない太り方はすごい)に半ば強引に交渉の場に追い立てられるスザンヌだったが、実はこの二人、かつて一時のアバンチュールを楽しんだ恋人どうしだったから話はややこしい。
世間知らずのスザンヌはドレスで着飾って団交に臨み、「みんなで仲良くおしゃべりしましょ」と労組側に話しかけて顰蹙を買う。しかしそんなスザンヌは労組の要求を呑み、経営を民主化して会社経営を立て直すことに成功する。このあたり、古い労務管理の手法ではもはや太刀打ちできない、そして新製品の開発にも若い感性を取り込まねばならない、という時代の流れをうまく取り入れて面白可笑しく物語を展開している。
そして、箱入り主婦だったはずのスザンヌの意外な過去が次々と明らかになり、話はどんどん面白くなる。スザンヌとロベール夫妻には子どもが二人いて、この二人がまったく違う考えを持っている。姉は父に似て保守的で、弟は母に似て開明的な芸術家肌。この二人のキャラも立っていて面白いし、そこにババンとのからみもあって、実に楽しい。ロベールは秘書を愛人にしていて、この愛人がまた妻スザンヌと結託するというおフランスらしいさばけ方。人間関係が複雑に絡まっているが、かといって別にややこしい話でもないし分かりにくさもまったくない。
カトリーヌ・ドヌーブは最後は歌まで歌うサービスぶり。まさにドヌーブ賛歌です。女性が頑張る映画は気持ちがいい。フェミニズムがバックラッシュに遭うはるか前の意気揚々としてた頃の雰囲気が漂う、軽快なコメディ。お奨め。
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POTICHE
103分、フランス、2010
監督・脚本: フランソワ・オゾン、製作: エリック・アルトメイヤー、ニコラス・アルトメイヤー、原作: ピエール・バリエ、ジャン=ピエール・グレディ、音楽: フィリップ・ロンビ
出演: カトリーヌ・ドヌーヴ、ジェラール・ドパルデュー、ファブリス・ルキーニ、カリン・ヴィアール、ジュディット・ゴドレーシュ