吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない

 熊沢誠先生のプチお奨め映画。労働基準法なんてまるで無視のIT業界の過酷な労働実態を描いた社会派作品。なわけなくて、過酷な実態をあくまで漫画にしてしまったコメディ。ドタバタコメディの一種だけれど、最後はほろりと泣かされてしまったのが悔しい。

 原作は2ちゃんねるのスレッドだそうで、ネット上で話題になった実体験を小説の形にまとめたものが出版されている。ニートの引きこもり青年が母親の死をきっかけに一念発起してやっと就職したのが「ブラック会社」であった、というお話。

 IT業界の使い捨ては有名だ。この映画では「ばらばらだった仲間が団結して一つの仕事をやり遂げる」という美しいお話を仕立ててはいるけれど、「仲間が団結して労働条件をよくするように闘う」ことにはならない。これは業界全体の問題だから、1社だけで労働条件の改善なんてできない。労働条件をよくすることによって納期を守れなくなる会社は同業他社に抜かれてしまう。クライアントは過酷な納期を迫ってくるし、納期を守るためには徹夜作業なんて当たり前になるのだ。

 本作がニート、長時間労働、働くことの意味、といった現代の労働問題を鋭くテーマに描いていることは画期的といえよう。まさに時代の申し子のような作品だ。しかし真面目な社会派作品にしなくてあくまでコメディにしたというのは正解だったのかどうか。それよりも、職場の問題を「個人の気持ちの問題」「心を入れ替えて頑張ればいい」という精神論に決着させたことがなによりの問題だろう。外部の問題(労働条件)と内部の問題(労働者の責任感や働きがい)は両方がそろってこそ、生き生きと働ける。


 「定時退社なんていうものは<都市伝説>なんだよ!」という一言には思わず笑ってしまった。ほんとにねぇ…
 こんなブラック会社の社長には『授業で使える 働く前に知っておきたい基礎知識 教科書版』をプレゼントすべきですね! 映画パンフレットにはブラック会社度チェックなるものがついていた。エル・ライブラリーも危ないかも…(^_^;)


 註:『授業で使える 働く前に知っておきたい基礎知識 教科書版』はNPO法人あったかサポートの編集発行。わたしたちエル・ライブラリーのスタッフが編集協力した本です。150ページの厚さと装丁で1050円は破格! さらにエル・ライブラリーのサポート会員は1000円でご購入できます。

101分、日本、2009
監督: 佐藤祐市、エグゼクテブプロデューサー: 豊島雅郎、原作: 黒井勇人、脚本: いずみ吉紘、音楽: 菅野祐悟
出演: 小池徹平、マイコ、池田鉄洋田中圭品川祐千葉雅子須賀貴匡、森本レオ、田辺誠一