吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

人生万歳!

 これはウディ・アレンの懐かしい香りがする映画だ。舞台がNYということもあるだろう。と思って調べてみたら、なんと脚本は1970年代に書かれていたのだがお蔵入りになっていたのだという。どうりで「アニー・ホール」のような作品だと思ったわ。

 ウディ・アレンは主演していないのだが、代わりに主役を張っているラリー・デヴィッドは外見といいしゃべり方といい、アレンの写し身である。親子以上に歳の離れた若い娘と再婚する初老の男、という設定もウディ・アレンの実生活そのまま。

 相変わらずウディ・アレンの脚本はインテリの自虐ネタ満載で、新しいミューズ、エヴァン・レイチェル・ウッドを迎えて実に嬉しそうである。エヴァンが知性の足りない若い美人メロディを演じているのだが、そのクネクネとした身振り手振りが気持ち悪くてたまらない。いかにも頭の悪そうな女にみえる。自分よりはるかに知識も教養もない女と結婚して妻に「頭がいい」と尊敬されることが嬉しいのか嬉しくないのか、とにかくウディ・アレンならぬボリスという天才物理学者はひたすら厭世的で、「世間はアホばかり」「すべての出来事が運命なのだ、そしてこの世は不条理に満ちている」とぼやき続ける。

 すべてが運命といいながら、その運命がどう転がるのかわからない奇想天外な展開になっていくのがまたこの映画の面白さ。メロディと結婚して一年後、幸せな新婚生活を営んでいると思い込んでいた二人のもとに、南部の田舎からメロディの母親が転がり込んでくる。そこから歯車は少しずつ狂い始めてきた。あるいは、本来の姿に戻りつつあったというべきか。やがてメロディの父親も現れ、彼ら夫婦はお互いが本当の自分を生きていなかったことに気づいて……。とにかくあとはもう、どんどんぶっ飛んだニューヨーカーのはみ出しぶりも天晴れな中年へと変身するメロディの母、そして父。そしてメロディとボリス夫婦にも新たな展開が……。


 ボリスの神経質ぶりやぼやきが面白すぎて、わたしの隣席のおばさんが笑いまくっていた。よくあれだけ声を出して笑えるものだ。正月からこういうお笑いが見たくて映画館へやってきたのね。やっぱり大阪人だわ。この笑いは「逸脱の笑い」であると同時に「予定調和の笑い」でもある。やはりウディ・アレンのユダヤ的世界観が反映しているのかと深読みしたくなるが、「歳の差と知能指数の差がありすぎる」とメロディの求愛を否定したボリスがいつしか彼女に惹かれていく、自己矛盾。アホ女とは一緒になれないと思い込んでいたのに、メロディと暮らす幸せにいつしか惑溺しているボリスの意外な一面。歳をとると人間は新たな自己発見があるのかもしれないし、それは意外な人との出会いによってもたらされるものなのだろう。人はそうそう理屈で人を愛したりするものではない。ボリスとメロディの出会いはまったくの偶然であったし、あまりにも違う二人が奇妙にも引き寄せあったりする、というのも「運命」なのだろう。そして、結局のところ、運命は「なんでもあり」。そう、”WHATEVER WORKS”なのだ。めでたしめでたし。

WHATEVER WORKS
91分、アメリカ、2009
監督・脚本: ウディ・アレン、製作: レッティ・アロンソン、スティーヴン・テネンバウム
出演: ラリー・デヴィッド、エヴァン・レイチェル・ウッドパトリシア・クラークソンヘンリー・カヴィル