去年のマイベスト10の第9位はこれ。わたしにとっては去年の作品だが、劇場公開は2009年である。これを映画館で見損ねたことはかえすがえすも悔しい。
この映画、ただの音楽コメディかと思いきや、最後は感動してしまった。スペクタクルまで用意してあったとは、リチャード・カーティス監督、憎い! どこまで実話なんだか興味津々。
時は1960年代、イギリス沖の北海上に浮かぶ大型船から放送されていた海賊放送をめぐるドタバタ音楽青春コメディ。当時、民放ラジオ局の存在しなかったイギリスでは、国営のBBCラジオがポピュラー音楽を1日45分しか放送しなかった。BBCに対抗して公海上に浮かぶ船から24時間ロックを流し続ける海賊ラジオ局“ラジオ・ロック”が生まれ、若者たちに支持されていた。この海賊放送は広告収入で成り立っていたが、下品な放送が気に食わない大臣が、どうにかしてラジオ・ロック局をつぶそうとあの手この手で弾圧にかかる。放送が合法なら、非合法になるように法律を変えてしまえ。広告で成り立っているのなら、広告を禁止してしまえ。
むちゃくちゃな権力の横暴と闘うラジオ局!
物語は、個性的なDJたちの群像劇でもある。放送局のオーナーであるクエンティンに預けられた高校生カールが船に乗り込んできて、彼が映画の中での「外部の目」の役割を果たす。船中の会話の数々は下ネタ満載で、放送禁止用語もかまわず吐き散らそうとした人気DJのカウントがクエンティンに止められるシーンは爆笑もの。
音楽の使い方が実にうまい映画で、ほとんどミュージカル状態。懐かしいポップスの数々が流れるので、中高年には涙がちょちょぎれることでしょう。何人ものDJたちが一隻の船に乗って集団生活を営むわけだから、彼らの人間関係は濃い。そこには友情あり苛めありライバル意識むき出しのバカな肝試しありセックスありドラッグあり、まるで旧制高校の寮のような乱痴気騒ぎだ。
権力とDJたちとの「戦い」をクロスカットで描写する編集も見事で、大変面白く仕上がっている。クエンティン役のビル・ナイはスマートでかっこよく、カウント役のフィリップ・シーモア・ホフマンは声がいい。”ドクター”は太ってメガネをかけた冴えない男のように思うのに、彼には女性ファンが大勢いて、もてることもてること! リチャード・カーティスは群像劇の処理が実にうまい。さすがは傑作「ラブ・アクチュアリ」の監督だけのことはある。船の中の人間だけでは面白くないから、ちゃんとカールという若者を中心にすえて、彼の成長物語/父探しの物語も用意するし、最後は「タイタニック」まであったとは! 笑えてかつ、胸がすく面白さだった。いまや、このように根性のあるメディア人間もいなくなったのでは。
どこまで実話なんだか、と思って粉川哲夫さんのレビューを読んだら、実話をさまざまに練り合わせてあることが判明。イギリスの海賊放送局を描いた『海賊放送の遺産』という本がお奨めということなので、早速図書館で借りてみた。しかしこれが思ったよりもはるかに大部な本だったので、とても全部を読む時間がない。さっと斜め読みだけで返却したのが残念である。
サントラもほしいですねえ。(レンタルDVD)
<追記>
本作を担当した配給会社の方からの情報で、ラジオ・ロック局のモデルとなったラジオ・キャロラインが今も健在であることを教えていただきました。http://www.radiocaroline.co.uk/#home.html
本作担当者は今はケビン・コスナーの最新作「ネスト」を担当されています。連日Twitterでケビン・コスナー関連のクイズを出し続けてキャンペーンに精出しておられるので、ぜひフォローしてみてください。https://twitter.com/#!/nestmovie
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THE BOAT THAT ROCKED
135分、イギリス/ドイツ、2009
監督・脚本: リチャード・カーティス、製作: ティム・ビーヴァンほか、製作総指揮: リチャード・カーティスほか
出演: フィリップ・シーモア・ホフマン、トム・スターリッジ、ビル・ナイ、ウィル・アダムズデイル、 ニュース・ジョン、ケネス・ブラナー、エマ・トンプソン