吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

武士の家計簿

 原作本を読んだのはいつのことだったか、たぶん出版された2003年に読んでいる。これがまさか映画になるとは思いもしなかった。いったいどうやってあの歴史書を映画にするのだろうかという好奇心が先立つ作品である。そして仕上がりがあっと驚くホームドラマになっているではないか。


 予告編を見たときからけっこうウルウル来ていたのだが、いざ本編を見るとさほどのことはない。ちょっと予告編を見すぎただろうか。それに、予告編の編集がうまいので、面白いところは全部さらわれてしまったね。全体の印象は、可もなく不可もなく。森田監督はいまさら何を血迷ってホームドラマを作ろうとしたのか。個人的には武士の家計簿というのは興味津々なので別にかまわないが、映画ファンは何を期待してこの作品を見に行くだろうか。殺陣もない、色恋もない、サスペンスもない、これでお正月映画というのはちと地味すぎるといえよう。

 ただ、今の時代に、倹約第一を旨とし、質素に生きよと諭す映画はそれなりに時代に合っている/合いすぎている、といえるだろう。これがバブルの時代ならいい説教になったかも知れないが、いまや節約しなければ生活が成り立たない時代であり、いまさら他人にとやかく言われなくてもとっくに倹約も質素も実践済みであるわな、という御仁も多かろう。

 腑に落ちないのは、そろばん侍と呼ばれ、計算一筋の猪山直之の珠算の技がたいしたことない、という点。なんであんなに算盤をはじくのが遅いのだ? あれでは3級もとれるまい。算盤の珠が重いのだろうか。今と違って五つ珠であるので、それが面白かった。そうそう、劇場用パンフレットが凝っていて、算盤型のケースに入っている。

 先に「地味すぎる」と書いたが、幕末を舞台にしながらまったく英雄が登場しないというのはかえって新鮮であった。加賀藩の下級武士を主役にし、一家の慎ましい生活を地道に描く、というコンセプトそのものには好感を持てる。主役の堺雅人がインタビューに答えて言っていたが、「誰もが革命家になれるわけではない」、その通りであり、誰もが坂本竜馬や大村益次郎高杉晋作にはなれないのだ。名もなき武士が現代にその名を残したのは、ひとえに彼が36年間も家計簿を付け続けたゆえである。その生真面目さと慎ましさにはやはり好感が持てる。

 金沢へ行ってみたくなった。音楽もいい。

                                        • -

129分、日本、2010
監督: 森田芳光、プロデューサー: 元持昌之、原作: 磯田道史、脚本: 柏田道夫、音楽: 大島ミチル
出演: 堺雅人仲間由紀恵松坂慶子、西村雅彦、草笛光子、伊藤祐輝、大八木凱斗、嶋田久作中村雅俊