吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

アメリア 永遠の翼

 一ヶ月以上前に試写会にて。いつも試写会に招待してくれるパープルローズさん、ありがとう! (来年も期待しています)

 役者がうまいから安心して見られる。ヒラリスワンクはアメリアそっくり。ただし、これはヒットしないと直感させる映画だ。この映画が日本で受けないだろうと思う第一の理由は、主人公アメリアが有名じゃないという点。アメリカでは最も有名な女性の一人だそうだが、日本ではほとんど知られていない。初の女性単独飛行で大西洋を横断した人物であり、映画「ナイトミュージアム」にも彼女の銅像(人形?)が登場している。このときはアメリア役をエイミー・アダムスが演じたが、本物のアメリア・イヤハートは彼女のような美人ではない。


 アメリアは「女性初」と冠がつく荒業を次々とものした人物であり、女性解放の象徴のような存在だ。恋愛観・結婚観も極めて自由放縦で、婚外恋愛にも精を出す。アメリアの恋人ジーン・ヴィダルをユアン・マクレガーが演じていたのでちょっと笑ってしまった。というのも、彼がゲイ役を熱演した「フィリップ、きみを愛してる」を見たばかりだったから。「フィリップ…」のときとは打って変わって髪の色も黒くなり、ダンディなヴィダルを演じているユアン・マクレガーには惚れ惚れする。

 そしてアメリアの夫はリチャード・ギアが渋く渋く演じている。アメリアをめぐる三角関係が興味深く描かれているが、妻に献身的に尽くす夫をないがしろにして空き放題している妻、というようにも見えて、リチャード・ギアが気の毒である。


 アメリアが飛行機乗りで大活躍していたころ、世界は大不況の只中にあった。失業者が街に溢れる様子を見て、アメリアは悩む、「こんなに不況なのに、自分は飛行機に乗って好きなことをしている」と。かといって彼女はそこで慈善事業家に転進したりはせず、あくまで自分の夢を追求していく。アメリアの苦悩や喜び、といった大きなドラマのうねりが深まることなく流されていってしまう。


 この映画、悪くはないのだが、いまいちパンチに欠ける。最大の欠点は飛行シーンに迫力とスリルがないことか。特に、アメリアが行方不明になった最後のフライト、世界一周旅行に緊張感が希薄だ。「これで最後にするわ、あなたのもとに帰る」と夫と最後の無線交信をした後、彼女は帰らぬ人となった。いまだにアメリアは見つかっておらず、機体のかけらすら発見されていないため、その真相をめぐってはさまざまな憶測が流れているという。しかし映画ではその「憶測」には触れていないし、結局のところ何があったのか、分からないままだ。

 というわけで、全体に踏み込みが足りない、と感じさせる作品だ。ヒラリー・スワンクがうまいだけに、もったいない気がする。

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AMELIA
112分、アメリカ/カナダ、2009
監督: ミーラー・ナーイル、製作: テッド・ウェイト、製作総指揮: ロン・バス、ヒラリー・スワンク、原作: スーザン・バトラー、メアリー・S・ラヴェル、脚本: ロン・バス、アンナ・ハミルトン・フェラン、音楽: ガブリエル・ヤレド
出演: ヒラリー・スワンクリチャード・ギアユアン・マクレガー