吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

幻影師アイゼンハイム

 これは面白い! 最後のどんでん返しは予想通りだったけど、それでも引き込まれて見てしまった。
 こういう映画を見ると、歴史的背景に興味がわく。「プレステージ」を思い出す。



 19世紀のオーストリアが舞台。史実であるオーストリア皇帝と皇太子の確執を物語の一つの軸に据えて面白い政治劇を見せる。とはいえ、主役はあくまで魔術師のアイゼンハイムである。彼の魔術のタネは最後まで明かされることはないが、その「不思議さ」が映画全体の雰囲気を謎めいたものにし、また、脇役として登場する警部の複雑なキャラクターをポール・ジアマッティが実にうまく演じているため、たいへんメリハリのいい作品に仕上がっている。アイゼンハイムのカリスマ的人気や、その不思議な魔術に引かれていく19世紀のヨーロッパの人々の不安な心性というものもまた興味深いのだが、映画ではそのあたりの掘り下げは浅い。

 貴族の令嬢と家具職人の息子という身分違いの恋や、労働者階級出身の警部がいかに皇太子のお気に入りであっても所詮は小間使いに過ぎないという厳しい現実に、最後に警部がとる態度の伏線が引いてあり、なかなか興味がつきない。

 とにかく歴史的背景をもっと知りたい勉強したいという欲望が猛烈に頭をもたげる作品だ。そういう意味では観客の知的好奇心を刺激する良い作品といえるだろう。(レンタルDVD)

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THE ILLUSIONIST
109分、アメリカ/チェコ、2006
監督・脚本: ニール・バーガー、製作: マイケル・ロンドンほか、原作: スティーヴン・ミルハウザー、音楽: フィリップ・グラス
出演: エドワード・ノートンポール・ジアマッティジェシカ・ビールルーファス・シーウェル、エドワード・マーサン