吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

フィリップ、きみを愛してる!

 ジム・キャリーユアン・マクレガーのゲイ演技に仰天。二人ともすごい熱演ぶりで、特にジム・キャリーはすごすぎ! あ、やっぱりR-15よね、当然。ジム・キャリーも随分老けてしまって、最初誰だかわからなかったが、この熱演振りにはさらに驚かされた。


 最近では出色のゲイものコメディかと思うが、まさか実話とは信じがたい。「まっとうな」人生を送っていた警官が、交通事故で瀕死の重傷を負ったのをきっかけに「本当の自分を生きる」と決意、妻に「ぼくはゲイ」とカミングアウトして離婚。以後はゲイ人生のために必死で詐欺を働く。何しろゲイ生活は金がかかるのだから、詐欺して儲けるしかないじゃん! とばかり。で、このスティーヴン(ジム・キャリー)が詐欺で捕まって服役中に生涯の恋人であるフィリップ(ユアン・マクレガー)に出会ってしまう。ここからがすごい。人を騙して生きることが彼の仕事となっているのだが、その後はすべてフィリップのために生きることを決意し、涙ぐましい熱愛をそそぐ。フィリップのために何度も脱獄を繰り返し、彼のために詐欺を働き大金を手に入れる。彼に「愛している」と言いたいためだけに命がけで脱獄もするし、なんだってやる。


 この物語のすごいところは、愛のためなら愛する人も騙すというスティーヴンの倒錯しまくった熱愛に加えて、自分の夫がゲイ宣言して自分たち妻子を捨てたにもかかわらずいつまでも「いい友達」関係を保ちつつ何かと協力するスティーヴンの元妻のでき過ぎた人格者ぶりが挙げられる。ユアン・マクレガーがこれほど美しい役者だったとは、初めて気づいたのも収穫か。


 この話、男女のふつうの恋愛ものならそれほど面白くもないのだが(いや、十分面白い)、なぜこれがゲイのことになるとこれほど感動したり引いたり、観客の感情の起伏に訴えてくるのだろう? 将来、ゲイが当然の市民権を得るような時代にはこの手の作品はもはや感動を生まなくなるのかもしれない。


 え、何? ハリウッド映画じゃなかったの!? リュック・ベッソンが製作総指揮のフランス映画だったわ。びっくり。(レンタルDVD)

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I LOVE YOU PHILLIP MORRIS
97分、フランス、2009
監督・脚本: グレン・フィカーラジョン・レクア、製作総指揮: リュック・ベッソン、原作: スティーヴ・マクヴィカー、音楽: ニック・ウラタ
出演: ジム・キャリーユアン・マクレガーレスリー・マンロドリゴ・サントロ