吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

大奥

 荒唐無稽な大奥。期待したほどには面白くなかった。

 男女逆転の物語といえば思い出すのは石坂啓の漫画。タイトルは忘れてしまったが、「大奥」と違って石坂作品は現代劇であり、かつ、徹底的に男女が逆転していた。というか、そっくりそのまま男女が生物的に入れ替わっていた。男がスカート履いて、女が背広ネクタイで出勤する。夫(女)が家で暴力を振るい、妻(男)が泣いたりわめいたりして「あなた、浮気しちゃいやよ」みたいな感じ。


 それに対してこの「大奥」は男女のジェンダーはそのままである。女は女で綺麗な着物を着て着飾るし、男は武芸に励む。単に男の数が極端に減ってしまっただけということなのである。しかしそれでも十分設定としては面白い。男女って逆転させれば、今までの性別役割分業がおかしなことであったと気づくものだ。しかしこの「大奥」ではそのへんが中途半端。


 この映画、どういうわけか絵柄がチマチマとしていて、江戸の町並みが箱庭っぽい。風景は書割に見えるし、フィルムで撮っているはずなのになんというか、こてっとした絵本のような質感がある。コスチュームプレイの豪華さがあるにもかかわらず、映像の重厚感がないために、妙に薄っぺらい印象を受ける。


 さて、男ばかりの大奥では、ボーイズラブも花盛り。確かにイケメンをそろえてはいるけれど、わたし好みのがいなかったため、そこがこの映画の減点箇所。竹野内豊とか福山雅治とか城田優とか玉山鉄二とかを出してくれればよかったのに。むしろ、印象に残ったのは将軍吉宗を演じた柴咲コウの威厳ある態度だ。あの大きくてきつい目でじっと睨みつける目ぢからはたいしたもの。

 上昇志向の強い男たちが大奥で繰り広げる嫉妬や術数、これが従来の大奥像とさして変わるところがなく、そういう意味でも新鮮味がなかった。せっかく男女逆転にしたのに、なんでもっと面白いことをしてくれないかな。男女逆転といいながら、ジェンダーバイアスは元のまま、というところが価値観の転換に至っていない点なのだろう。

 財政再建のために緊縮財政を断行し、大胆なリストラも行う吉宗の手腕が、現代の政治に直結する問題として見えてくるところが、この映画のねらい目でもあるだろう。吉宗のえらいところは、ちゃんとリストラ対象を選んでいるところである。長らく薄給で働いてきた非常勤講師350人の首を切った某大阪府の知事とはえらい違いだ。

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116分、日本、2010
監督: 金子文紀、エグゼクティブプロデューサー: 豊島雅郎、濱名一哉、原作: よしながふみ、脚本: 高橋ナツコ
出演: 二宮和也柴咲コウ堀北真希大倉忠義中村蒼、玉木宏、倍賞美津子、竹脇無我和久井映見阿部サダヲ佐々木蔵之介、菊川怜