死んだ男の魂が、天使の導きにより、自殺したばかりの中学生の体に入り込む。「修行」することによって、その男は輪廻転生のサイクルに入ることができて、もう一度生まれ変われるのだ。しかし、「修行」とは何か? 男は生前、とても大きな過ちを犯したのだという。その罪を思い出し罪と向き合うことで男は生まれ変われると、案内役のプラプラという名の天使は説明するのだが…
最初のうち、テンポが遅くてイライラさせられた。アニメ独特の質感や高揚感が希薄だ。リアリズム重視のテンポでアニメを見せられると大変つらいということがよくわかった。しかし、このゆっくりじっくりと描かれた中学生の日常生活があるからこそ、クライマックスで観客を泣かせることができるのだ。
死んだ男は借り物の中学生・小林真の境遇を知って落胆する。真はどうやら学校ではいじめられ、母親の不倫を目撃してしまい、父親の無能ぶりに嫌気がさし、兄とは犬猿の仲らしい。おまけに憧れの年下の美少女は援助交際中。こんなとんでもない状態だが、真の身体を借りている男にとってはすべてが「他人事」。醒めた態度を見せる小林真に周囲は「なんか変、いつもの小林真と違う」と驚くやら不審の目を向けるやら…。
この映画は10年ほど前に実写で撮られている。その作品と今回の作品がどのように違うのかわからないが、なぜアニメにしたのか、その事情がいまいち腑に落ちない。アニメ独特のデフォルメや簡略化と細密化の妙が見られないからだ。唯一、今は無き路面電車「玉電」の写真集の場面だけが、実物の写真と手描きの絵との微妙なあわいが表現されていて、大変よかった。手描きと思ったけど、CG処理なのだろうか? この場面は原作にはないそうで、監督の特別の思い入れがあるらしい。鉄道オタクを泣いて喜ばせようとでも思ったか? このエピソードなどは脇道にそれる話で、特段必要とも思えない。こういった脇道が多い映画が成功する場合と冗長になる場合があるが、本作では冗長に思えた。子ども向きアニメで127分というのはいかにも長い。ただ、ここが評価の難しいところで、じっくりゆっくりと登場人物の日常生活を描き、心理の襞まで細かく描写したからこそ、クライマックスシーンたる家族の食事風景が感動を呼ぶのである。
アニメらしさを期待すると肩すかしを食らうけれど、やはり原作が持つ味わいがよいのだろう、いい話には違いない。なんといっても、世の中はカラフルであってよいという価値観、そして「本当の自分」なんてないのだという社会構築主義的アイデンティティ観には好感を覚えた。もうすぐ「食べて、祈って、恋をして 」という、いい歳をして自分探しの旅に出る女の映画が封切られるが、そんなアホらしい物語よりもよっぽどこの「カラフル」のほうが大人の話ではないか。
そうそう、母親が手作りするおかずの数々がなかなか美味しそうでよかった。料理が丁寧に描かれている点も、このアニメの細やかな心遣いを感じる。
声の出演者を見てびっくりしたのは、小林真の同級生でメガネをかけた女の子の声を宮崎あおいが演じていたこと。上手い!
127分、日本、2010
監督: 原恵一、原作: 森絵都、脚本: 丸尾みほ、作画監督: 佐藤雅弘、音楽: 大谷幸
声の出演: 冨澤風斗、宮崎あおい、南明奈、まいける、入江甚儀、麻生久美子、高橋克実