吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

薔薇の名前

 午前十時の映画祭、何度見てもすごい50本。http://asa10.eiga.com/
 いや実にこの企画は大成功です。昔の映画なんて誰が金を払って観るのか、という主催者側の危惧を見事に裏切って予想外の大ヒット。この映画もほぼ満席だったし、来年もまた同じ企画をやるらしい。楽しみ!


 さて、本作は図書館映画として有名な作品だ。映画にはサスペンスだのアクションだの恋愛だのとジャンル分けがあるが、図書館人は「図書館映画」というジャンルを自分たちで作って楽しんでいる(参照サイト:http://www.libcinema.com/)。本作はウンベルト・エーコの原作になる映画作品で、かなり難解な原作をわかりやすいエンタメ作に仕上げている。原作は何年も前に購入したのにいまだに読んでいないことを思い出した。これをきっかけに読んでみよう。


 中世イタリアの修道院を舞台にした殺人事件の謎を解くのは、中世のシャーロック・ホームズならぬわれらがショーン・コネリー演じる修道士ウィリアム。巻頭から彼が観察眼にすぐれた知的な人物であることがわかるエピソードがちりばめられている。さらになにしろ男前だし、長身だし、ひときわ目立ってどうしようもない。老いてもなおこんな美男子を修道院に閉じ込めておくなんて、世間が許してもわたしが許しません。彼以外の修道士がみんな醜男なものだから、映像的には著しくバランスを欠く。て、文句言ってるのか喜んでるのかどっちでしょ〜。
 

 さて、映画は謎解きという面白さでぐいぐいと観客を引っ張り、本来的テーマである神学論争や哲学史への言及という衒学的な部分がちっとも煩わしくない。脚本のバランスはたいへんよい。加えて、映像の陰気なこと、死体の残酷な姿など、ゴシックホラーの雰囲気に充ち満ちている。最初の死体は「犬神家の一族」かと思いましたよ。


 中世の教会支配の恐ろしさやおぞましさがよく描かれていて、登場する修道士や異端尋問官の見るからに極悪そうな容貌など、キリスト教へのアンチテーゼがくっきりと浮かび上がる。教会は修道士に笑うことを禁じていたというあたりが、現代のファシズム支配にも通じるものがある。『もっと笑うためのユーモア学入門』森下伸也著、を思わず思い出してしまった。


 物語の主人公はウィリアム修道士だが、語り部は彼の若き弟子クリスチャン・スレイターだ。その弟子が老人になってから少年時代を回顧するという構造になっている。クリスチャン・スレイターが若くて可愛いのでびっくり! 情欲を克己せんと悶々とする若き修道士を好演している。修道士たちにとって女は修行の邪魔者であり、女は彼らを誘惑する魔物であった。女は魅力に溢れ、かつ恐ろしい。


 映画がいよいよラストシーンに近づき、「薔薇の名前」って何よ?と不思議に思ったが、最後になってタイトルの意味がわかる。



 画面の暗さにふれて、自然光で撮影したのだろうと思ったが、うちのY太郎に言わせると、「ちゃんと照明を使っている。でないと、夜のシーンは絶対に撮れない」と断言していた。ふーん、そうなのか。「完全に自然光だけで撮ったのは『バリー・リンドン』ぐらいのもんや」とも。来年、この「バリー・リンドン」を午前十時の映画祭で上映してくれないかなぁ。

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THE NAME OF THE ROSE
132分、フランス/イタリア/西ドイツ、1986
監督: ジャン=ジャック・アノー、製作: ベルント・アイヒンガー、原作: ウンベルト・エーコ、脚本: ジェラール・ブラッシュ、ハワード・フランクリン、アンドリュー・バーキン、アラン・ゴダール、音楽: ジェームズ・ホーナー
出演: ショーン・コネリー、F・マーレイ・エイブラハム、クリスチャン・スレイター、エリヤ・バスキン、フェオドール・シャリアピン・Jr