吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

やわらかい手

こういう話には素直に感動してしまいます!

 
 と、書きかけてちょっと調べてみたら…



 ええええええ〜〜っ、なんですってぇ゙〜っ! このおばあちゃんって、「あの胸にもう一度」のあの超セクシーなあの彼女なんですかぁ〜っ! ショックショックショック。なんで歳とったらこんなになるの?!



 と、驚天動地でありましたたが、いちおう立ち直ったので…。こほん、仕切り直しです。あー、それにしても美女の壊れかたってすごいです。


 さて、孫が難病でどうしても大金が必要なおばあちゃんがやっとこさ見つけた(それも偶然に)お仕事が風俗嬢。それも、東京発の「手こぎ屋」さんです。こんな風俗店、ほんとに日本にあるのでしょうか? 壁に開けた穴に男性が○●△を差し込んで、壁の向こうにいる女性が手でシコシコしてあげるというお仕事。これなら確かに手の技さえ抜群なら女性の年齢は関係ありません。それにしてもこんなあほらしい性技のために大の男たちが行列を作るってありえるのかしら?


 自分は質素な労働者住宅に住み、裕福な友人たちのサロンに呼ばれていくマギーにすれば、歳とって何の取り柄もない自分に自信をとり戻すことができたのだから、風俗の仕事も悪くない。しかもそのきっかけに孫の命を救うため、という美しい動機があるゆえに、観客はもちろんマギーの味方。しかしマギーが売れっ子の”IRINA PALM”(手のひらイリーナ)になったために同僚は仕事を干されてとうとう馘首。ここにも過酷な競争原理が働いている。マギーは仲間と連帯することができない。その仲間には幼い息子がいて、彼女はDVゆえに夫と離婚して逃れてきたという悲惨な背景がある。


 DV、貧困、移民の性産業、難病、等々イギリスの暗部を抉る背景描写が続く一方、かすかなユーモアもまた織り込まれている。何より、風俗店のオーナー、ミキがよかった。強欲な移民かと思ったけれど、実は案外孤独な苦労人。彼がなぜマギーに惹かれたのかはよくわからないけれど、こういうロマンスもありか。


 息子というのはとかく母親に対して厳格さを求め、母親を聖女視するものだ。マギーの息子もしかり。しかし、このあんまり出来の良くない息子も、結局は母親に対して折れるしかなかろう。

孫のためにと懸命になるおばあちゃんのいじらしい姿には単純に感動してしまった。暗いトーンの話なのに、なぜか心が温かくなる、なかなかの佳作。(レンタルDVD)

IRINA PALM
103分、ベルギー/ルクセンブルク/イギリス/ドイツ/フランス、2007
監督: サム・ガルバルスキ、製作: セバスティアン・ドゥロワ、ディアナ・エルボーム、脚本: フィリップ・ブラスバン、マーティン・ヘロン、音楽: ギンズ
出演: マリアンヌ・フェイスフル、ミキ・マノイロヴィッチ、ケヴィン・ビショップ、シヴォーン・ヒューレットドルカ・グリルシュ