吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

小さな命が呼ぶとき

 筋力が徐々に弱り、やがて亡くなってしまう難病「ポンペ病」に罹ったわが子を救うため、新薬開発の製薬会社を立ち上げた親の物語。主人公ジョン・クラウリー一家は実在し、クラウリーは1990年代後半から今に至るまで、ポンペ病の治療薬開発のため奮闘中という。


 このストーリー、「ロレンツォのオイル」を思い出す。「ロレンツォのオイル」にしても「小さな命が呼ぶとき」にしても、難病の子どもを持った親がいずれも高い知的能力や財力を持っていたということが子どもにとって大きな幸運となる。子どもの命も親の能力格差によって運命が左右されてしまうのだ。これは非情なことだけれど、仕方がないのかもしれない。

 ポンペ病は筋ジストロフィーに似ているが、違うようだ。遺伝病なので、両親の遺伝子の組み合わせによっては生まれてくる子どもたちがきょうだいともポンペ病を発病する場合がある。平均寿命9歳といわれるポンペ病の特効薬はなく、クラウリー家のメーガンとパトリック姉弟もあと1年の命と宣告されていた。父ジョン・クラウリーは愛する子どもたちのために、ポンペ病の特効薬を研究中の変人学者ロバート・ストーンヒル博士を訪ね、新薬開発のための資金を提供するので子どもたちを助けてほしいと懇願する。天才科学者だけれど孤独で協調性はまるでなく、僻地ネブラスカの研究室にこもっているストーンヒル博士は、「わたしは学者であって医者ではない。子どもたちを助けることはできない」と一旦は断るが、ジョンの熱意と、クラウリー家の子どもたちに会って翻意する。やがてストーンヒル博士とクラウリーは製薬会社を立ち上げるが…。


 子どもたちのためにはキャリアも捨てて、新薬開発のために全力を尽くす父親は美しい。しかしこの映画の真骨頂はそんな家族愛にあるのではなく、新薬開発のためのノウハウであり、投資家たちの関心を得るためのプレゼンであり彼らとの駆け引きであり、偏屈ストーンヒル博士の愛すべきキャラクターである。ストーンヒル博士をハリソン・フォードが実に魅力的に演じているが、実際にあんな人間が職場にいたら困るだろうなぁと思う。学者というのは自分の研究のためには家族も趣味も犠牲にするのだ。ついでに仲間とのチームワークも無視。しかしストーンヒル博士は「金になんか興味はない」と言い切るところがいい。そう言いながらも結局は儲けたのだから、それはまあ努力へのご褒美ということでよしとしよう。

 ハリソン・フォードブレンダン・フレイザーのファンと言う長男Y太郎のご要望で「男と女」に続けて見たが、なかなかに面白く、やはり実話の持つ力というものを強く感じさせられた。家族を愛するあまりに利己的になるジョンの姿も描かれていて、確かに、ジョンの子どもたちさえ助かればそれでいいのか?という疑問は消えない。実際にはもっとどろどろの裏話があったのではないかと思わせるが、素直に感動できる物語である。と同時に製薬会社の非情/非道さにもあきれた。いくらビジネスとはいえ、人の命を預かっているのに、その使命感よりも投資分が回収できるか、利益が上がるのか、ということにしか興味がないとはどういうことだろう?

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EXTRAORDINARY MEASURES
105分、アメリカ、2010
監督: トム・ヴォーン、製作総指揮: ハリソン・フォード、原作: ジータ・アナンド、脚本: ロバート・ネルソン・ジェイコブス、音楽: アンドレア・グエラ
出演: ブレンダン・フレイザーハリソン・フォードケリー・ラッセル、メレディス・ドローガー、ディエゴ・ベラスケス