吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

トイ・ストーリー3 日本語吹替版

 3Dは頭が痛くなるので2Dで。このシリーズは1995年の第1作が世界初のフルCGアニメとして一世を風靡した。もちろんわたしは劇場で見てたまげたものだ。その後、セルビデオを買って子どもたちと何度も何度も何度も繰り返し見ても飽きなかった。それほど高品質の映像と、おもちゃの世界のスケールの大きさが気に入ったのだ。そんなに大好きな「トイ・ストーリー」なのに、今回の「3」を見て、「2」を見てないことに気づいてしまった。わたしとしたことが何たる手落ち。早速DVDで見なくては。しかし、この第3話はたとえ「2」を見ていなくてもさほどの問題なく理解できる。主要キャラクターは第1話でそろっているから、中抜けしても大丈夫。
 第3話のテーマは子どもの成長と別れ。トイ・ストーリーは我が家の息子たちの成長とも軌を一にしているので、玩具の持ち主アンディの成長ぶりがまぶしくも微笑ましくも切ない。子どもはいつか成長しておもちゃとも別れ、親とも別れて巣立っていくのだ。その成長振りが何よりも嬉しいとともにさびしいし、子育てに苦労した分だけ、胸に迫るものがある。
 アンディが大学生になって家を出て行くというときになって、彼は部屋の整理を始めるが、幼いころから遊んできた保安官人形ウッディたち玩具を捨てがたい。大学へ持っていくか、捨てるか、屋根裏にしまいこむか、あれこれと悩んでいるうちに、誤って玩具たちはゴミ収集車に放り込まれてしまう。さあ大変、オモチャたちはなんとか逃げ延びたのだが、行き着いた先の保育園で新たな遊び相手を見つけたと思ったのもつかの間、まだ幼すぎるモンスターチルドレンたちが玩具を乱暴に扱い、ウッディたちはガタガタになってしまう…。
 この物語の面白さは、玩具たちがそれぞれ意志を持って行動するところ。人間が見ているところでは物言わぬ玩具なのだが、人のいないところでは言葉をしゃべり、自分たちの世界を構築している。その落差が毎回とっても面白い。これはアニメならではの切り替えの面白さだ。今回、彼らは保育園からの脱走を試みる。ごみ収集車に詰め込まれてピンチ続出、一難さってまた一難の波乱万丈の冒険を繰り広げる。観客はスピード感やスリルをたっぷり堪能できる。そのうえ、笑える場面もふんだんにある。バズ・ライトイヤースペイン語バージョンは見ものです、お楽しみ。
 そして泣かせるのは、ウッディの友情だ。彼は自分ひとりがアンディとともに残ることもできたし、自分ひとりが助かることができたときにも、決して仲間を見捨てなかったし、仲間を裏切らない。どんなことがあってもみんな一緒。苦労も喜びも死も分かち合う。そんなウッディの姿こそが大人が子どもたちに見せたい姿だろう。
 でもわたしはそんな勇敢で心優しいウッディの姿よりも、玩具とアンディたちの別れのほうがずっと泣けた。玩具はいつか捨てられる。いつか振り向かれなくなる。そんな決別は少年時代から青年時代への通過儀礼として誰もが経験せねばならないことだ。うちの息子たちなんて、アンディほど玩具を大事にしなかったし、意外にあっさりと玩具を捨ててしまっていたが、この映画で描かれるアンディと玩具たちとの惜別の情は、アンディの成長にとってとても大きな糧となるに違いない。玩具にとって第2の人生はどこにあるだろう? 玩具たちの波乱万丈の「人生」が、人の実人生に重なって見えて、しみじみしてしまった。
 仲間を大切にすること、物を大切にすること、年少の子どもたちに優しくすること、そんな倫理や道徳を説教臭くなく教える点で、この映画は成功している。
 そうそう、今回、わたしの臨席には3歳ぐらいの男の子を膝に抱いたおばあさんが座っていて、この二人、ぺちゃくちゃお喋りせず静かに見ていてくれるかしらと心配していたら、なんのことはない、巻頭5分でおばあさんは大きな船をこぎ始め、あとはほとんど熟睡しておられました。こんなに面白いのにもったいないねぇ。ボクちゃんはおばあちゃんが寝ているのも気づかず、画面に集中していた。お利口だねぇ。ときどきなにやら声を上げていたけれど、おばあちゃんは寝ているので反応なし(~o~)。実を言うとわたしも途中少し寝てしまったのだが、それはまあ、「太陽がいっぱい」に続いて見たので疲れが出たということであって、決して映画が面白くなかったわけではない。
 それから、本編が始まる前に6分のショートアニメが上映される。「ナイト・アンド・デイ」という無言劇だが、これもまたよくできた話で、他者との出会いと葛藤と融和という、9.11以後のアメリカの課題をさりげなく描いて楽しめる。

TOY STORY 3
103分、アメリカ、2010
監督: リー・アンクリッチ、製作: ダーラ・K・アンダーソン、製作総指揮: ジョン・ラセター、脚本: マイケル・アーントジョン・ラセターアンドリュー・スタントン、リー・アンクリッチ、音楽: ランディ・ニューマン
声の出演: 唐沢寿明所ジョージ日下由美勝部演之