吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

太陽がいっぱい

午前十時の映画祭にて。

 何十年ぶりかで再見。以前はもっと話がサクサク進むような気がしていたのに、今回見るとずいぶんまどろっこしくて話の展開が遅いのでちょっとイラついた。最近のせわしない映画に慣れてしまったためだろう。だからといってわたしは話の展開の速い映画ばかりを好むわけではない。じっくりゆっくり撮られた映画も大好きなのだから、問題はそのリズムがわたしに心地よく合うかどうかだろう。その伝で言えば、本作はどうもテンポが合わない。テンポだけではなく、登場人物の人間関係や背景などの説明がほとんどないため、ものすごくわかりにくい。それでも最後までまったく飽きないのはひとえにアラン・ドロンのおかげ。ひたすらアラン・ドロンの美しい顔を見つめつづけて2時間、ああ、至福のとき。


 中学生のころ、わたしはアラン・ドロンの大ファンで、自分の父親ほども歳が離れたおじさんにすっかり夢中になり、部屋にポスターを貼りまくるわ、グラビア写真を集めまくるわと、雑誌『ロードショー』を毎月買ってはせっせとアラン・ドロンの写真を切り抜いていたのであった。

 そして今、息子ほど年下の青年アラン・ドロンを見て、中学生のころに「渋いおじさま」にあこがれたのとはまったく違う気持ちで再び彼にのめり込む。この作品はアラン・ドロンの悪魔的美貌がなければ、これほどまでに名作と謳われたかどうかわからない。マリー・ラフォレの愛らしい美しさもまた観客の目をスクリーンに釘付けにする。これほどの美男美女なら、2時間たっぷりアップで登場されてもまったく観客を飽きさせない。実に俳優の魅力というのは映画にとって大事な要素だと痛感した。



 本作はフランス映画だが、場面はほとんどイタリアを舞台にしているから、当時のフランス人にとっては異国情緒溢れる観光映画として見られたことだろう。実際、「太陽がいっぱい」という明るい地中海の風景が次々に映り、船上のシーンも多いため、海と空の眩しい光が存分に味わえる。アラン・ドロンが市場をさまようシーンなどは彼の独特の暗い表情と相まって、エキゾチックムード満点の名場面だ。


 サスペンスとしては、ずさんな犯罪と捜査にあきれるばかりだが、まあ50年も前のことだからいいとして、アラン・ドロンが二人目の殺人を犯す場面の緊迫感は素晴らしいし、どこか滑稽なのも面白い。


 本作は貧乏な青年が金持ちの友人をうらやみ、彼になりすますという犯罪もので、そこに何の教訓もなさそうな映画だが、暗い野望は持たぬが花よ、という強烈なラストシーンはいつまでも印象に残る。初めて見たときに印象に残っていた場面はもちろんこのラストシーンと、アラン・ドロンが友人の筆跡を真似るために壁にサインを投影して練習する場面。



 人物設定のおざなりなところや詰めの甘いサスペンスという瑕疵があっても、なおも永遠に映画史に残る作品には違いない。アラン・ドロンですよ、ドロン。こんな奇跡はもう起こらない。

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PLEIN SOLEIL
122分、フランス/イタリア、1960
監督: ルネ・クレマン、製作: ロベール・アキム、レイモン・アキム、原作: パトリシア・ハイスミス、脚本: ポール・ジェゴフ、ルネ・クレマン、撮影: アンリ・ドカエ、音楽: ニーノ・ロータ
出演: アラン・ドロン、マリー・ラフォレ、モーリス・ロネ、エルノ・クリサ、ビル・カーンズ