吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ボーダータウン 報道されない殺人者

 メキシコ国境の町には多くのアメリカ合衆国系の工場が建ち並び、関税特権によって肥え太っている。そこで働くのは貧しい女子労働者たち。彼女たちは極端に悪い治安状況の下でなんと10年間に5000人もが殺されたり行方不明になっているというが、地元警察は資本家に金を握らされているので、その事実を握りつぶしてしまう。治安維持のためにかける金がもったいない工場主たちは、安価な女子労働者を人とも思わずこきつかい、いくら彼女たちがレイプされ殺されても見向きもしない…

 
 などということが本当にあるのか、にわかには信じがたいが、この映画は事実に基づいているという。何千件もの殺人事件を野放しにし、犯人を挙げようともしない警察。事実を報道しようとする反権力新聞社は警察の弾圧とテロの脅威にさらされている。あまりにもすさまじい話なので本当に実話なのかと疑ってしまう。


 それに、ジェニファー・ロペスが新聞記者役で登場するのだが、彼女があまりにも感情的でちょっとついていけない面がある。確かにサスペンスものとしてはかなりの緊迫感があって高得点なのだが、社会派としてはドラマ部分が弱すぎるし、腑に落ちないところがたくさんあったり、中途半端なラブロマンスを匂わせたり、詰めの甘さが否めない。

 
 とはいえ、こういう事実が今でもまかり通っているなら、これは本当に許しがたくもすさまじいことだ。「人権」というのはこういう場面でこそ訴えるべきものだろう。(レンタルDVD)

BORDERTOWN
112分、アメリカ、2006
製作・監督・脚本: グレゴリー・ナヴァ、製作総指揮: ケリー・エプスタインほか、音楽: グレーム・レヴェル
出演: ジェニファー・ロペスアントニオ・バンデラス、マヤ・サパタ、マーティン・シーン