吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

12人の怒れる男

オリジナルであるシドニー・ルメット作品の大枠だけを借りた、まったく別の物語。


 1回目に見始めたときは「なんだか散漫な映画だ、だらだらと長い」と感じて途中で寝てしまった。2回目、やはり最後のほうで寝てしまったが、1回目に比べたら遙かに面白く見ることができる。これはこれでオリジナルと別物と思って見れば、ロシアの現状についてたいへんよくわかる作品ではないか。多民族国家ロシアの様々な文化にも触れることができる。で、3回目、やっと全部見終わる。なんという長さ。


 最初に書いたように、この映画はオリジナルとはまったくの別物であり、事件の陪審を通してロシアの政治・社会問題を浮き彫りにしようとするもの。その浮き彫りのさせかたが、12人の陪審員による語りによる、というところが舞台劇的だ。ただし、オリジナルが陪審員室から一歩も出なかったのに比べると縦横に回想シーンが織り込まれ、またその映像の処理や光を活かした画面造りがたいへん凝っている。自分語りをする男達の演技があまりにも真に迫っているので、映画的なリアリズムを無視して物語は進む。舞台劇なら気にならないだろうが、あまりにも語りが多すぎ、そのうえ演技過剰なので、映画としては退屈してしまうきらいがある。


 とはいえ、最後まで見終わって、これはなかなかの力作であることが判明した。一気に見ることができないほど長いというのが唯一の欠点か。ニキータ・ミハルコフ監督、なかなかの手練れと見た。過去の作品リストを見ると、国際映画祭でのノミネートや受賞も多いし、チェックしたい監督さんです。(レンタルDVD)

12
160分、ロシア、2007
製作・監督・脚本: ニキータ・ミハルコフ、共同脚本: ヴラディミル・モイセイェンコ、アレクサンドル・ノヴォトツキイ=ヴラソフ 、音楽: エドゥアルド・アルテミエフ
出演: セルゲイ・マコヴェツキー、ニキータ・ミハルコフ、セルゲイ・ガルマッシュ、ヴァレンティン・ガフト、アレクセイ・ペトレンコ