吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

しあわせのかおり

 すっかりわたしのツボに嵌ったので、大満足! そもそも料理が美味しそうな映画は大好きなのであり、そのうえ、擬似的父娘の愛情が絡むと涙腺緩みっぱなし。


 なんだか訳ありそうなシングルマザーが金沢の小さな上海料理店に弟子入りする、という地味な地味な物語。うら寂しい日本海の冬の景色が映ったり、金沢の小さな町並みがしっとりと映るだけでもう、古き良き謙虚な日本文化の香りがする。でも登場するのは中国料理であり中国人コック。中谷美紀は役柄のせいなのか、老けて見える。藤竜也もすっかり老人になってしまった。娘を亡くした父と父を亡くした娘。二人が互いに父と娘の姿を見る、上海の場面が感動的。


 腕の良さと頑固さで有名な上海料理店店主ワンさんは脳梗塞で倒れてしまって、料理人としては再起不能に。しかし、そこに救世主現る。ワンさんの料理に惚れ込んだ山下貴子が仕事を辞めて弟子入りするのだ。なぜ頑固なワンさんが彼女の弟子入りを許したのか? それはおいおい分かってくることなのだが、お互いに相手に今は亡き愛する人の姿を見ていたのだろう。


 紆余曲折を経て、貴子はワンさんの大事なお客の晩餐会を仕切ることになる。そしてなぜか唐突に上海の場面に。あまりに急な展開にふつうはついて行けないものを感じるだろうが、わたしはまったく気にならなかった。上海、そこは時空がゆがんでいるような世界だ。かつての租界がそのまま残っているかと思えばSF映画の様な宇宙の町が映し出されたり。まるで絵に描いてあるかのような上海タワー一角の風景には不思議なものを見たワンダーランドのめくらましの気分。そのあとがこの映画最初のクライマックスだ。ワンが紹興の町の人々に「私の自慢の娘です」と貴子を紹介する場面で涙腺決壊。


 このあと、中谷美紀はなんども泣く。ちょっと泣きすぎじゃないの? とか思いながらわたしも泣く。たった1年ほどでワンさんの跡を取れるほどに腕が上達するものか?とか、いろいろツッコミどころはあるのだけれど、また、まったく予想通りに展開する凡庸なストーリーにも関わらず、主演二人がとても良い味を出しているからなのか、とにかくまったく退屈せずに見ることができた。クレジットに「文化庁支援」とあるのを見て、さにあらんや、と納得。

 
 藤竜也、歳をとってますます渋くていいです。包丁さばきも素晴らしく、ほんものみたいに見えるところがさすがは役者。


 クライマックスの晩餐シーンで供されるご馳走の数々には涎が…。23年ものの紹興酒飲みたい飲みたい! ああああ〜、身がよじれまするぅ。でも、あんなに贅沢な食材を使わなくていい、安くて美味しい中国料理でじゅうぶん。庶民はささやかな心づくしの料理があればそれで満足。というわけで、料理がおいしそうな映画には点数が甘いわたしとしては、かなり楽しめた一作。(レンタルDVD)

124分、日本、2008
監督・脚本: 三原光尋、ロデューサー: 三木和史、野村敏哉、エグゼクティブプロデューサー: 白石統一郎、三好順作、音楽: 安川午朗
出演: 中谷美紀藤竜也田中圭、下元史朗、木下ほうか、八千草薫