吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ミレニアム/ドラゴン・タトゥーの女

今年の早春に映画館で見た映画が、既にDVDレンタルリリースされていることに気づいたので、レビュー。この手の映画はわたしの好みではないのだが、それでもやっぱり娯楽作の王道を行く「溜めと放出」が実にうまくバランスのとれている作品だ。残虐シーンが連続するのでそれはちょっと眉をひそめるけれど、サスペンスものとしてはかなりよくできている。眠気も覚める映画でありました。


 謎が深い割には、解けてみると「なんだ、またそれか」という感がなきにしもあらずだけれど、さすがは原作者が左翼雑誌の編集者だけあって、そういう社会派的なところはきちんと押さえてある。


 本作には、ヨーロッパ映画の品格に欠けるような残酷シーンが頻出する。また、主役の男優が魅力に乏しいので、これはぜひブラピに演じてほしいと思っていたら、やっぱりタランティーノがブラピ主演でハリウッドリメイクを考えているとか。原作ファンのS子さんによると、主人公ミカエルはかなりの女性好きで、『ミレニアム』誌の女性編集者と20年に亘る不倫を続けているのだとか。相手の女性には夫がいて、しかも夫公認の不倫だそうな。さすがはスウェーデン。
 しかし、映画ではそういうややこしい話は一切カットして、ほんの少し匂わせる程度に控えてある。そして、社会派作品のはずだけれど、それもまた最小限度に抑えてあって、主眼はあくまでも謎解きサスペンスである。


 その謎というのは……
 孤島に住む富豪一族の女性が40年前、16歳のときに行方不明となった。彼女を実の娘のように可愛がっていた叔父が、老い先短い自分の死期を悟ったのか、有能な記者ミカエルに捜査を依頼する。「彼女は殺されたのだ。しかも、犯人はわが一族の中にいる」と。ミカエルは悪徳実業家を糾弾する記事を書いて名誉毀損で有罪判決を受けたばかり。その事情がまた原作ではかなり詳しく書かれているそうで、大変面白いのだとか。それもまた映画ではほとんどすっとばし。そして、ミカエルの片腕となる「探偵」役になるのがリスベットという天才ハッカー、24歳。全身入れ墨、鼻ピアス、唇ピアス、の異様な出で立ちの彼女には暗い過去があるようだが、映画では彼女の過去には深入りしない。ミカエルとリスベット、主役二人が出会うまでがかなり長い。二人が出会うまでの長い事情がまた興味深いので、やはり後は原作を読むしかなさそう(原作者は自身の処女作が大ヒットすることも知らず、出版間際に心筋梗塞で亡くなった。享年50歳)。

 
 リスベットには深い心の傷がある。それゆえにか、彼女は自らに加えられた暴力に対して、果敢に立ち向かう。その様があまりにもすさまじいので思わず腰が引けた。この映画はヨーロッパ映画の慎ましさが感じられず、ハリウッドが好むような残虐なシーンが頻出する。しかし、風景はやはり北欧だ。このうら寂しい海や島の風景の中でこそ、呪われた血族の欲望という物語が似つかわしい。
 既に第3部まで映画は製作済みで、エンドクレジットの後に第2部の予告編が上映された。楽しみ。

MAN SOM HATAR KVINNOR
153分、スウェーデン/デンマーク/ドイツ、2009、監督: ニールス・アルデン・オプレヴ、原作: スティーグ・ラーソン、脚本: ニコライ・アーセル、ラスマス・ヘイスターバング、音楽: ヤコブ・グロート
出演: ミカエル・ニクヴィストノオミ・ラパス、スヴェン=ベルティル・タウベ、イングヴァル・ヒルドヴァル、レナ・エンドレ、ステファン・サウク