吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

フロスト×ニクソン

 これほど魅力的なニクソンが存在したとは!


 ニクソンといえばウォーターゲート。今となってはウォーターゲート事件しか記憶に残っていないニクソンが、これほどまでに饒舌で貫禄があったとは。ロン・ハワード監督は共和党支持者だそうで、なるほど本作にはニクソンへの敬愛の情が溢れている。


 ウォーターゲート事件についてわたしよりうちのY太郎のほうがよく知っていたのには驚いた。しかも些末なことばかりよく知っている。さすがは雑学の鬼。ちなみに情報源はゲームソフトだそうな。近頃の子どもたちって、どっから情報を得ているのかと思ったら…やれやれ。


 さて、本作はもともと戯曲だけあって、台詞の応酬に手汗握るスリリングな展開だ。ニクソン役のフランク・ランジェラの大仰な台詞回しはまるでシェイクスピア劇のようで、ニクソンの尊大さを体現してあまりある。ニクソンとフロストという、どちらも腹黒い人間どうしが相手を出し抜こうとするが、ニクソンのほうが一枚も二枚も上手。世紀のインタビューと謳いながら防戦一方のフロストにはコメディアン出身の軽さが見られるが、彼が雇ったブレーンたちが本気で必死なところが面白い。ニクソンにもフロストにも裏方がついていてセコンドを演じているというところがいかにもテレビ時代を象徴する。いかにテレビに映るか、いかにテレビで自己演出するか、その成功によってニクソンは地に落ちた政治生命を再び蘇らせようとし、フロストは莫大な利益を得てテレビ界で不動の地位を得たい。上昇志向の強い者どうしの食い合い、これは見ていて実にスリリングだ。


 この映画はウオーターゲート事件を観客が知っているということを前提にして作られているので、若い人には難しいかもしれない。今頃になってニクソンの評価を変えようという意図がロン・ハワードにあるのかどうかは知らないが、ブッシュのような情けない大統領に比べれば随分大物だったのだと思わせる、そして何よりも、去りゆく大統領の寂寞感を伝えて余韻あるドラマに仕上がっている。権力の座というものの魅力とそこから追い落とされたときの惨めさの対比が見事だ。ニクソンにすっかり同情心を持ってしまった。

 
 ちなみに、YouTubeでこの時放映された映像が見られる。実際のフロストは映画よりかなり渋い。(レンタルDVD)

FROST/NIXON
122分、アメリカ、2008
監督: ロン・ハワード、製作: ブライアン・グレイザーほか、製作総指揮: ピーター・モーガンほか、原作・脚本: ピーター・モーガン、音楽: ハンス・ジマー
出演: フランク・ランジェラマイケル・シーンケヴィン・ベーコンレベッカ・ホールトビー・ジョーンズ