吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

インフォーマント!

グリーン・ゾーン」のかっこいいマット・デイモンを見る前に、かっこ悪いマットくんを見るのも一興かと。

 それにしてもわかりにくい映画だ。わたしは1回半見てやっと理解できた。何がわかりにくくしているかというと、主人公の独白。マット・デイモンは食品関連大企業ADM社の重役マーク・ウィテカーを演じる。彼は生化学者であり、技術畑から抜擢されて若くして重役となり、経営陣に迎えられた。このウィテカーが企業犯罪を内部告発するのだが、話は簡単ではない。そもそも映画の巻頭に「本作は事実に基づくが、台詞は誇張されている。悪しからず」とというふざけたイクスキューズが出るように、ウィテカーのもってまわった独白が画面に重なることで、彼の「心ここにあらず」といった病的な側面を描いているわけだが、それが話を見えにくくしている。


 事件は1992年に始まる。ほんの少し前の時代と思うのに、パソコンのモニターが分厚いブラウン管なのが懐かしい。もちろんWindowsではない。ウィテカーの美しい妻はどういわけか90年代というよりは60年代風の髪型とファッションをしている。こんなのがほんとに90年代に流行ってたっけ??


 企業犯罪を当該会社の重役が告発するって、そんなことアリ?! と思うけど、実際このウィテカーはそういうことをやったわけで、彼の告発によってFBIが動き、司法省だの産業省(だったっけ)だのと国の機関が動き出す。ところが、内部告発者たるウィテカー自身が、事が落ち着いたあかつきには自分は会社に復帰して社長にでもなれると思いこんでいるから口あんぐり。物語が進むにつれて、どうもこのウィテカーの言うことは怪しいと観客は誰もが気づく。しかし、映画の中のFBIは気づかない。事件の解明が進むにつれ、嘘つきウィテカーの嘘が次々と露見し、万事休す…!



 コメディにジャンル分けされている本作だが、まったく笑えるシーンはない。確かに笑うべきなんだろうと思えるシーンはいくつもある。しかし、笑うよりも、「?」マークがいくつも頭の中を飛ぶ。なんだこれは? いったい彼は何者? 何を考えているの? 実際、これほどの虚言癖と能天気さはまさに病的だ。そしてウィテカーは「双極性障害」という診断をもらうことになる。だが、映画を見ている限り、その病名もなんだか怪しい。彼を無罪にするために弁護側がむりやり病気ということにしてしまったふうにも見える。ウィテカーの言動を見ていると病気のようには思うが、こういう人っていくらでもいそうだから怖い。「ほら吹き男爵」のたぐいはみんなこの双極性障害てことになるんじゃなかろうか?


 出世欲、金銭欲、名誉欲、およそ後期資本主義社会に適合的な欲望はすべて持っている、そういう意味ではごく普通の上昇志向の強い男が、自己保身から次々と嘘を重ねてFBIを振り回す。そういう映画をコメディとして描いた(描こうとした)ソダーバーグ監督の批判精神は奈辺にありや? ウィテカーの姿を見て胸に手を当てて反省する観客が何人いることか。ただうすら笑っていたり呆然としたりするだけでは、大なり小なりウィテカー的人物の再生産は止まらないだろう。(レンタルDVD)


 ※粉川哲夫さんがこの映画について、「「双極性障害」(Bipolar Disorder) を持つ人物をストレートに描いた最初の映画作品である」という視点から書いておられるので、参考にどうぞ。http://cinema.translocal.jp/2009-10.html#2009-10-22


 ※※「インフォーマント!」を見たあとで「グリーン・ゾーン」を見たけど、つまんなかったし、ほとんど寝てたから、レビューは書かない。

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THE INFORMANT!
108分、アメリカ、2009
監督: スティーヴン・ソダーバーグ、製作総指揮: ジョージ・クルーニーほか、原作: カート・アイケンウォルド、
脚本: スコット・Z・バーンズ、音楽: マーヴィン・ハムリッシュ
出演: マット・デイモン、スコット・バクラ、ジョエル・マクヘイル、メラニー・リンスキー