吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

タクシデルミア

これほど見るまでに時間のかかる映画もない。わたしにとっては冷や汗ものの気色悪い映画であることは間違いなさそうなのに、でも小麦さん(http://www.comugi.cc/cgi-bin/diary/200803.html)が「絶対見てね!」と念押しするし、うーーーーーむ。勇気を振り絞って……


 というわけで、何回かに分けてようやく観了。


 このエネルギーの無駄遣い=大食い選手権というのは東欧諸国が常に飢えていたことへの皮肉なのか? キャビア45キロの大食いなんていう信じられない、もったいないオバケたたられ必至行事は、「国民の富を官僚が無駄遣いしている」ことへの批判なのか? なーにが「今にIOCの正式種目になる」よ! ありえないでしょ!


 映像の力はさすがにNHKが目をつけただけあって、素晴らしい。というか、えげつない。この監督の「ハックル」(http://d.hatena.ne.jp/ginyu/20090102)にもびっくりしてそれこそしゃっくりが止まらない思いがしたが、本作でも特に前半のカメラ使いにはうなった。映画でできることには何があるのか、観客は何が見たいのか、よっく分かっている人です。

 
 で、これだけの極端な物語を提示するからにはそれはもうもちろん、ハンガリー社会へのブラックユーモアというか社会批判というか…などと「理知的に」考えながら見ていたのだけれど、なんだかそれもアホらしくなってきた。パールフィ・ジョルジ監督、この人は希代の遊び人ではなかろうか。自分の好きなように映像で遊ぶ。そんな天才かもしれない。



 思ったよりもまともな作品であったことにとりあえずは安堵。しかしやっぱりこれは普通ではないので、好みは極端にわかれる。わたしにはまったく好みでなかった。それにもかかわらず、最後の腑分けシーンを見て、腸の羅列には思わず「美味しそう、ホルモン焼き食べたい」と、「テッチャン」を思い浮かべたわたしって変なのでせうか…


 公式サイトには、マルシア=ガルケスだの、デヴィット・リンチだのというオマージュが並ぶ。確かに、それらアーティストの作品に通じる誇張やイメージの爆発がある作品だ。原作がパルティ・ナジ・ラヨシュの短編2作というが、その原作を読んでいないため、もともとナジが何をいわんとしていたのかよくわからないが、この映画は原作を換骨奪胎した可能性がある。原作は日本語訳が見つからない。


 わたしがこの作品を見てまず思ったことはキリスト教の7つの大罪だ。この映画は祖父・父・息子の3代に亘る大罪を描いているとも言える。それは、


祖父「色欲」
父「暴食」
問題は息子。これは何だろうか?「傲慢」か「嫉妬」か「憤怒」か。


 息子が自分自身を剥製にしてこの親子三代の物語は終わる。最後に来るのは「傲慢」かもしれない。何よりも、神が決めるべき人間の寿命を自殺というかたちで自分で決着したことが神を冒涜する傲慢ともとれるし、大食い選手権のスター選手であった父への嫉妬ともとれるし、その父へも憤怒ともとれる。


 三部作を通じて徹底して「肉」に肉迫したパールフィ・ジョルジ監督、彼は画面(となる舞台)を360度縦回転させたり、幻想シーンと現実シーンをシームレスにつないだりと、確かにデヴィッド・リンチなみの映像を見せてくれるが、それ以上に斬新だ。第2部の大食と嘔吐の場面が最も醜悪を極めたとわたしには思えるが、なぜか第3部の剥製は全然平気。内蔵をいくら切り裂いても、ちっとも怖くない。それは整然とした理性に基づく腑分けであるからだ。人体解剖が神聖であるのと同様に、剥製作りもまた神聖な腑分けのシーンだ。スプラッターホラー映画で内蔵が飛び散るとのは訳が違う。いや、神聖どころか、さっきも書いたけど、実に美味しそうなので困った。てっちゃん鍋食べたい…

 
 原作が描こうとした世界が社会主義下ハンガリーの退廃だとしたら、この作品は既に資本主義の退廃に毒されつつあるハンガリーの現状を皮肉を込めて描くことへとスライドしている。原作は社会主義が崩壊してから書かれているから、後期資本主義の退廃を描こうとしたのか…。それにしてもこういう発想は草食系のアジア人にはないと思う。(レンタルDVD)


 ※こういう、エログログログロ系の映画、屁爆弾さんならどのようにご覧になるだろう、屁爆弾さんの感想を聞いてみたい…。


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TAXIDERMIA
91分、ハンガリー/オーストリア/フランス、2006
監督: パールフィ・ジョルジ、原作: パルティ・ナジ・ラヨシュ 、脚本: ルットカイ・ジョーフィア、パールフィ・ジョルジ、音楽: アモン・トビン
出演: ツェネ・チャバ、トローチャーニ・ゲルゲイ、マルク・ビシュショフ、コッパーニ・ゾルターン