吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

イングロリアス・バスターズ

 昨年、息子二人を連れて鑑賞。タランティーノらしくない、妙に真面目な雰囲気。予告編で抱いたイメージとは随分違う。


 冒頭から音楽が西部劇。タランティーノの音楽の使い方がなんともオールディーズに凝っていて、唸らせる。映画オタクだけあって、古い映画への愛に満ちあふれたオマージュの数々は、ふつうだったら微笑ましいけど、これだけやり過ぎると「いくつ分かるかね?」と監督に試されているような気持ちになってあまりよろしくない。


 ナチスものの戦争映画でも映画オタクが作るとこうなるのか、と感心するのが「プレミア大作戦」。映画が好きだったゲッベルスやヒトラーのキャラクターを活かしたストーリーだ。ナチスを残虐に殺す悪名高き米軍「バスターズ」のテロと、ユダヤ系フランス人少女の復讐とをからめて、最後にド派手なクライマックスに持っていく展開はお見事。そこに至るまでの緊迫感もなかなかのものだ。


 予告編ではバスターズの「ナチスの皮剥ぎ」とか残虐な殺し方を面白可笑しく見せていたが、本編はさほどでもなかったのでやや拍子抜け。声を出して笑うようなシーンはなかったけれど、ラストシーンだけは笑ってしまった。


 特筆すべきは、本作でカンヌ映画祭最優秀男優賞、アカデミー賞助演男優賞ほかを受賞したクリストフ・ヴァルツの演技だ。四カ国語を操るSSの将校を見事に演じてその冷酷さをスクリーンいっぱいに溢れさせた。この映画では、言語が大きなキーを握る。アメリカ映画なのに役者たちに4カ国語を喋らせたところがタランティーノのこだわり。イタリア語の場面などもうケッサクで、これも笑えるシーンその1だった。


 本作では、映画「レニ」(http://d.hatena.ne.jp/ginyu/20100403)を見たり『ナチスと映画』を読んだりしていたのが大変役に立った。Y太郎も多少「レニ」をわたしと一緒に見ていたから、ドイツの山岳映画やレニ・リーフェンシュタールの知識があり、すぐに理解できたようだ。


 いくつも見せ場がある映画だが、わたしが気に入ったのは、地下の酒場のシーンの緊迫感と、映画館炎上のクライマックスでメラニー・ロランの顔がスクリーン一杯に大写しになり不気味に大口を開けて笑う迫力と不気味さ。本作のポスターではメラニーよりもダイアン・クルーガーのほうが美しく写っているが、本編ではメラニーの美しさも際だっている。

 
 面白い映画には違いないのだが、何をいいたくてナチス映画を撮ったのか、その意図がよくわからない。ナチスを笑い者にするのが目的なのか、平和を訴える反戦映画とも思えないし……。とはいえ、史実をねじ曲げた力業には拍手。


 さて、さんざん予告編で流れていた、「面白くなかったら全額返す」というキャンペーンの結果、関西では0.5パーセント、76人が退場したそうだ。http://hochi.yomiuri.co.jp/osaka/gossip/cinema/news/20091125-OHO1T00118.htm こんなに面白いのにもったいないねぇ。


 そろそろレンタルDVDがリリースされるようなので、未見の方はぜひどうぞ。

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INGLOURIOUS BASTERDS
152分、アメリカ、2009
監督・脚本: クエンティン・タランティーノ、製作: ローレンス・ベンダー
出演: ブラッド・ピットマイク・マイヤーズダイアン・クルーガークリストフ・ヴァルツメラニー・ロラン、アーチー・ヒコックス、イーライ・ロス