吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

その土曜日、7時58分

 犯罪サスペンスであると同時にこれは家族の物語である。それにしても暗い。あまりにも陰鬱な。


 同じシーンを繰り返し描き、その都度少しずつ違う角度からその場面の意味を観客に知らしめる。この構成が見事であると同時に若干かったるい。


 あまりにも容易で幼稚なその場しのぎの犯罪、本人たちには「犯罪」という自覚すらなかった宝石店強盗なのに、一つ躓くとあとは坂を転がるようにそれぞれが持つ秘密や嘘が暴かれていく。父に愛されなかった長男、可愛がられて優柔不断になった次男、彼らが犯罪に走ったことの背景に浮かび上がる家族の葛藤。一つの家族だけではなく、息子たちの家族もまた憎しみと嘘に彩られた生活をしていたのだ。


 男3人の演技が素晴らしく、思わず画面に見入ってしまう。父の驚愕、父の怒り、父の絶望。愚かな息子は父を憎みそして愛していた。父もまた同じ。彼らの愛が憎しみにかわるとき、悲劇は悲劇を生む。家族という甘えと慣れが結局は互いへの愛に向かわなかった、自己愛に過ぎないことを冷酷にむき出される、救いようのない映画。


 もの悲しいテーマ曲が美しく、印象に残る。(レンタルDVD)

−−−−−−−−−−−−−−−−−
BEFORE THE DEVIL KNOWS YOU'RE DEAD
117分、アメリカ/イギリス、2007
監督: シドニー・ルメット、製作: マイケル・セレンジーほか、製作総指揮: デヴィッド・バーグスタインほか、脚本: ケリー・マスターソン、音楽: カーター・バーウェル
出演: フィリップ・シーモア・ホフマンイーサン・ホークマリサ・トメイアルバート・フィニー、ブライアン・F・オバーン