吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

Mr.ブルックス 〜完璧なる殺人鬼〜

 久しぶりに知的でハンサムなケヴィンを見た。連続殺人鬼だというのにとても優しそうで、いい男。しかし映画は陰惨な殺人事件のお話。とはいえ、かなり変わっている。なにしろこの殺人鬼は自分が殺人鬼であることに耐えられなくて、なんとかして殺人依存症から立ち直ろうとしているのだから。アルコール依存症と同じように「殺人依存症」に罹っているブルックス氏の苦悩は深い。彼には「マーシャル」という分身がいて、そのマーシャルをウィリアム・ハートが演じている。ウィリアム・ハートの不気味な演技はさすがの迫力で、主役を食ってしまっている。ハンニバル・レクター博士のような怖さはないし、ごく普通の紳士なのだが、このマーシャルがブルックスの欲望に火をつけ殺人をそそのかすところが怖い。マーシャルはブルックスのヒーローであり支配者だ。

 
 ブルックスはかなり高級な趣味を持つ実業家でありよき家庭の父である。ところがこの家庭にもなにやら秘密と問題がありそうで、美しい一人娘が大学を退学して帰宅してきたところが事件の不気味な伏線になっている。

 
 結局最後まで謎は謎のまま残り、事件や謎のうちのいくつかはブルックスの妄想かもしれないという底知れなさを残して物語は終わる。


この映画のテーマはブルックスが何度もつぶやく、”change" だ。自分は変わりたい、なんとかして今の自分から脱して新しいまともな人間へと自己変革を遂げたいという狂おしいまでの願望。その痛々しさと裏腹の彼の冷酷な殺人に、わたしたちは人間が変わることの困難さを見る。いっぷう変わった作品だ。特典映像も面白い。(レンタルDVD)

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MR. BROOKS
120分、アメリカ、2007年
監督: ブルース・A・エヴァンス、製作: ケヴィン・コスナーほか、製作総指揮: サム・ナザリアンほか、脚本: レイノルド・ギデオン、ブルース・A・エヴァンス、音楽: ラミン・ジャヴァディ
出演: ケヴィン・コスナーデミ・ムーア、デイン・クック、ウィリアム・ハート、マージ・ヘルゲンバーガー、ダニエル・パナベイカー