吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

マン・オン・ワイヤー

f:id:ginyu:20160321222324p:plain
 竣工したばかりのWTCビルの間にワイヤーをかけて綱渡りした男がいた。確かに、そんなニュースを見た記憶がある。1974年、ウォーターゲート事件ニクソン大統領が逮捕される前日に、地上441メートルを歩いた男フィリップ・プティはフランス人だった。23歳で人生最高の瞬間を経験してしまった男がその35年後に当時を振り返るドキュメンタリー。一部に再現劇を交えてのドキュメントは、結果がわかっているにもかかわらず手に汗握ってしまう素晴らしさ。


 「史上もっとも美しい犯罪」と呼ばれるこの事件で、関係者は逮捕された。警官達がWTCの屋上で待ちかまえる中をゆうゆうと45分間も空中でダンスしていたすごい男、彼は「なぜ?」とアメリカ人達に質問攻めに遭った。「なぜなぜなぜ?」答なんてない。


 フィリップの最後の言葉を聞きながら思い出した。「フランス人を海に飛び込ませるにはなんと言うか。『飛び込んではいけません』」
 規則に逆らうことを快感としたとんでもない人騒がせな、そして素晴らしい偉業だ。よい子は真似しないように。


 この映画で明らかにされなかった資金源についても知りたいものだと思ったが、パンフレットにはすべて自己資金だと書いてあった。綱渡りをしたのはフィリップ一人だが、偉いのは仲間たちだ。彼らもまたとんでもないワルガキの片棒を担いで生涯忘れ得ぬ経験をしたのだった。恋人アニーもそう。今は無きWTC。もう二度と誰もあそこには登れない。

MAN ON WIRE
95分、イギリス、2008年
監督: ジェームズ・マーシュ、製作: サイモン・チン、製作総指揮: ジョナサン・ヒューズ、音楽: マイケル・ナイマン
出演: フィリップ・プティ