「孤高の監督」と呼ばれるブレッソンの出世作、デジタルリマスター版。確かに、そぎ落とされた緊迫の画面作りは素晴らしいが、いかんせん、本編が始まる前に既に疲れて眠くなっていたわたしは、途中何度も眠りの森の魔女に誘われて…。惜しいことをした、こんなにいい作品なのに。
この映画の特徴は「音」。極限まで張り詰めた映像の底からわきあがるギリギリとした音が、いっそうの緊迫感を与える。BGMは無きに等しく、主人公が脱獄のためにドア板を削り続ける音や、看守の足音、隣の独房との壁を叩いて通信する「コンコン」という音、刑務所の庭を歩く囚人の「散歩」の足音、などなど、観客には余計な情報を与えない中で、音が与える緊迫感が高密度だ。
時は1943年、ナチス占領下のフランス。レジスタンスの仏軍中尉が独房から脱走に成功するまでを描く。脱走に成功するという結末がわかっていて見ているのに、とてつもなく手に汗握ってしまう、この画像の作り込みというか、そぎ落としぶりはすごい。俳優を使わずに素人に演技させたという演出もまた、役者に演技をさせないという点で「これ以上ない、シンプルな映画」となっている。主演男優は役者ではなく、ソルボンヌ大学哲学科の学生だったとか。なるほど、インテリ情報将校のような面差しだなと思っていたのが、納得。決してマッチョな軍人タイプじゃないのに脱獄してしまうところが知恵者です。
独房のドアが粗末な木製であることに目を付けて羽目板を外してしまおうと発想したところはえらかったけれど、いざ板が外れても廊下に出られるだけ、というお間抜けな展開には思わず笑ってしまった。脱獄というからには塀の外に出なければ意味がないのに、彼は独房から外に出て廊下をうろうろと歩くだけ。意外なことにこのシーンは実に滑稽だ。命がけの緊迫シーンなのに笑えるというのは意図せざるブラックユーモアか。
白眉は、彼が死刑判決を受けた直後に独房に同居してくる少年のエピソード。中尉は脱獄の邪魔になる少年を殺してしまおうかと悩み…
何があっても諦めてはならないとか、知恵と勇気があれば事態は打開できるとか、いろいろ教訓めいたところはこの映画からくみ取れるだろうが、そんなことよりも、映画作品として何ができるかをとことんシンプルに追求したブレッソンの妥協しない姿勢に感銘した。(と言いながら途中寝たわたしはどうせB級映画ファン)
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UN CONDAMNE A MORT S'EST ECHAPPE OU LE VENT SOUFFLE OU IL VEUT
100分、フランス、1956年
監督・脚本: ロベール・ブレッソン、原作: アンドレ・ドゥヴィニ
出演: フランソワ・ルテリエ、シャルル・ル・クランシュ、モーリス・ベブアロック、ローラン・モノー