吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ゴーン・ベイビー・ゴーン

「BOY A」のような暗い社会派作品が公開されるのになぜこれほど見る人に問いかけを残す作品を公開しないのか、まったく日本の配給会社の考えがわからない。しかもビッグネームが何人も出演し、非常に渋い演技を見せているというのに。

 ボストン郊外の小さな町で、4歳の少女アマンダが誘拐される。警察だけではなく、私立探偵を雇ってアマンダを捜索しようとした伯母だったが、雇われたパトリックとアンジーはアマンダの母親ヘリーンがドラッグ漬けで娘の養育をネグレクトする酷い状況を目の当たりにする。マスコミには子どもを誘拐された悲劇の母として登場するヘリーンだったが、家の中は荒れ放題、シングルマザーのヘリーンはアマンダを放擲して恋人と遊びまわる女だった。やがて誘拐事件は悲劇を生み、物語は二転三転していく…

 単なるサスペンスではなく、非常に重い問いかけが込められた社会派作品である。本作が初監督というベン・アフレックの見事な演出には驚いた。作品の内容に相応しいかっちりとした演出で、隙がない。誘拐事件の真相を探る私立探偵の二人組を演じたケイシー・アフレックの台詞がもごもごと聞き取りにくいが、恋人で相棒のパトリック役ミシェル・モナハンがたいへん良い。もともと美人女優というよりはキュートな印象があるミシェルが、今回は悩める大人の演技をみせて美しい。前半のサスペンスの面白さでぐいぐい引っ張り、一気に事件の意外な結末へと導き、クライマックスシーンを迎える。この緊迫感溢れるクライマックスシーンでは、観客の価値観が鋭く問われることになる。

 最近、アメリカ映画では善悪を簡単に割り切れない作品が増えてきた。冷戦が終わり、白黒をつけることが難しくなってきた上に9.11以後、悩める合衆国国民が増えた(あるいは映画制作者たちがそのように捉えている)ということだろう。わたしたちの社会で常に突きつけられ続けるであろう問題について考えさせられる作品だ。テーマが重くて暗いので日本では公開されなかったのだろうか。

 ボストン郊外にあるという人工湖の奇観もまた作品に独特の陰鬱な雰囲気を与えている。原作のよさもさることながら、町の鳥瞰から始まって町並みの風景を写した巻頭といい、空撮で湖を撮った選択といい、ベン・アフレックの演出はなかなかのものだ。いい監督になるのではなかろうか。

 「シークレット・サンシャイン」より好きかも。(レンタルDVD)

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ゴーン・ベイビー・ゴーン
GONE BABY GONE
アメリカ、2007年、上映時間 114分
監督: ベン・アフレック、製作: アラン・ラッド・Jrほか、原作: デニス・レヘイン、脚本: ベン・アフレック、アーロン・ストッカード、音楽: ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演: ケイシー・アフレック、ミシェル・モナハンモーガン・フリーマンエド・ハリス、ジョン・アシュトン、エイミー・ライアン、エイミー・マディガン



Unknown (パープルローズ)
2009-02-14 21:42:21
これはほんとに未公開が不思議な映画ですね。モーガン・フリーマンとかエド・ハリスとか、有名なのに。
私は輸入DVDでみたので、ケイシー・アフレックの言ってることはほんとに理解不能でした(泣)。字幕なし? (ピピ)
2009-02-15 00:29:09
今更公開するのは無理としても、今後、このような映画はぜひ公開してほしいですよね。

この映画を字幕なしでご覧になったのなら、ケイシーのあの台詞はまったく意味不明ですね。よくご覧になりました、さすが!

また是非いい映画を紹介してくださいませ。