ちょっと興奮して誉めすぎたかもしれない。一息つきます。
一息ついたのでレビューの続きを。
お互いに配偶者を喪った中年二人が偶然出会う。こども達を同じ寄宿舎に預けていたのだ。出会った途端に互いが気になる存在になった二人だけれど、過去の虜囚となっているアンヌは素直に新しい恋に身を預けることができない。このあたりのもどかしさや、恋にときめく瞳のからまりあいはいかにも恋愛映画の王道をいく演技と演出。ルルーシュは確たる脚本を用意せず、リハーサルもせずにこの作品を撮ったという。即興的で淡い色彩の画面(実はモノクロだったりする)が枯れて落ち着いた雰囲気を見せるかと思うと、鮮やかなカラー画面ではアンヌの回想の中で今は亡き夫との明るく幸せな抱擁が流れる。
29歳のルルーシュは破産寸前であり、予算がなかったために本作はさまざまな制約をうけねばならなかった。モノクロとカラーの画面を交互に見せる手法が斬新でなかなか面白いと思ったのが、これが実は金がなくてオールカラーにできなかっただけのこととか。浜辺を歩く人物をロングで撮った場面もなかなか雰囲気がいいと思っていたら、これまたカメラがものすごい騒音を出すのでやむなく音が入らないようにカメラと役者を遠ざけたのだという。禍転じて福となす。この映画のスタイルが金のなさから生まれた棚からぼた餅式のものであっても、ルルーシュの確かなセンスのよさがこんなおしゃれな映画に仕上げたのだろう。
男が世界的に有名なレーサーというのも、スポーツカーをうまく演出に使えるいい設定だ。恋する女に会うために雨の深夜を不眠不休で車を飛ばすジャン・ルイ。そのはやる心が車の疾走とともによく描けている。そこにかぶさるフランシス・レイの音楽。あの、あまりにも有名な「シャバダバダ・ダバダバダ」! せわしなくカットバックを繰り返す演出も、離ればなれの恋人達の距離を表し、そのカットバックがだんだん一つに溶けていくのが二人の心の高まりを象徴している。
アンヌとジャン・ルイが抱擁する場面でカメラがぐるぐる回るのは当時とても斬新な演出だったようだが、今や全然珍しくない。でもこの場面は今見ても感動的です。
この映画には政治も社会問題も歴史も何も描かれていない。ただ、一組の中年カップルが新しい人生へと踏み出せるかどうか、恋へとまっしぐらに走る姿と一方で恋への躊躇いを描いた、ただただ美しく切ない<単なる恋愛映画>に過ぎない。ストーリーにも何も複雑なところはないけれど、映像に音楽をかぶせて恋の切なさと醍醐味を流麗なタッチで見せる。
こういう映画は何度見ても面白さが色あせないだろう。おそらく歳を取るほどにこの映画がもつ重さや切なさが理解できると思う。若い人には、一度見たら10年後にもう一度ご覧になることを勧めます。
あぁ〜〜、今更のようにサントラほしいっ!(レンタルDVD)
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UN HOMME ET UNE FEMME
フランス、1966年、上映時間 104分
製作・監督・脚本・撮影: クロード・ルルーシュ、脚本: ピエール・ユイッテルヘーベン、音楽: フランシス・レイ
出演: アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン、ピエール・バルー、ヴァレリー・ラグランジェ