吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

レッズ

 ロシア革命を取材し、『世界を揺るがした10日間』という傑作ドキュメントを著して歴史に名を残したジャーナリスト、ジョン・リードの伝記映画。今も彼の遺体はクレムリン宮殿に眠る。

 本編を見る前に特典映像から先に。当時のスタッフとキャストたちへのインタビューだけでも1時間以上ある。これが実に見応えがあって、インタビュー集だというのに見終わったときには感動して泣きそうだった。


 それにしてもパラマウントもよくアカの映画にお金を出したもんです。ベイティがカットを割りたがらなくてフィクスのカメラに執着し、撮影監督のヴィットリオ・ストラーロと衝突したという話は興味深かった。ストラーロは本作でアカデミー賞を受賞している。当時最先端の技術を使ったと言っていた。


 当然といえば当然だが、当時のスタッフ・キャストたちがすっかり歳をとっていることに驚いた。そうか、四半世紀だもの。ということはわたしも同じように歳をとったわけだ。ふう、そう思うと感慨深い。ベイティも思うんじゃないかな、この映画の頃はダイアン・キートンと恋仲だったなぁとか。彼もプレイボーイぶりを発揮していたのはこのあとアネットと出会うまでだ。アネットより20歳以上年上なんだから驚きます。初めての子どもが55歳か56歳で授かっているんだから、すごいタフですね。ま、そんなことは余談ですが(^^)。

 25年も前に見た映画だが、感動が蘇るようだ。少しずつ思い出してくる。たぶん、今見るほうが感動するだろう。


<そして、本編鑑賞>


 3時間半を一気に見た。圧倒され、打ちのめされ、焦燥にかられ、そして静かに泣いた。

 ルイーズの愚かさと、それゆえに紆余曲折したその深い一途な愛に感動した3時間半だった。

 やはり「インターナショナル」はロシア語版がいちばんよい。久しぶりに感動して血沸き肉踊ったけれど、あの革命の高揚感もたちまちにして官僚主義へと堕していく様が無残だ。ジャックがロシア革命を擁護していう台詞(諸外国が反革命干渉戦争をしかけている、国内では反革命勢力が破壊発動を行っているせいで革命がうまくいかない)も決して間違ってはいないのだが、昨日までの反乱軍が今日は権力を握るやたちまちその権力を守るために汲々とし始め、進歩派が保守派へと変節する。

 ジョン(ジャック)・リードにとってそれは耐え難い眺めだったろう。アメリカ代表ですらコミンテルンの会議で言葉が通じず焦燥に駆られるのだから、日本の代表などはさぞや疎外感を感じていたことだろう。

 ジャックとルイーズがレーニンを取材している場面は台詞なしでさらっと描かれるのだが、レーニンは演説している姿が遠くから映るぐらいで、まったく台詞がなかった。やはりビッグネームすぎて雲の上の人のように描いてしまうものなのだろうか。

 この映画のことをallcinemaのレビュアーが「真中に山があり、前後が退屈である」と書いていたが、ロシア革命を見たい観客にはそう思えるだろう。かつてのわたしがそうだった。学生時代に見たときには、ロシア革命を真正面から描いた映画だと聞いて興奮して見に行ったのに、恋愛映画だったのが興醒めだった。もちろん最後まで面白く見たのだが、「予想していたのとは違う」という不満が残った。若い頃は恋愛が邪魔と思ったけれど、今はこの映画が恋愛映画であることを嬉しく思う。と同時に、確かに革命の挫折もちゃんと描いてあるし、ジャックのやるせなさや、客死せざるをえなかった者の望郷の思いが辛く胸に響いた。

 演出はかなり控えめで、ジャックが亡くなる場面など淡々としている。静かにルイーズがジャックの手を握るのを見て、「そうだ、人が亡くなったとき、ああして手を握るものだ」とぐっと胸がつまった。

 ジョン・リードが主人公ではあるが、むしろルイーズに焦点が当たっているように感じて、わたしには好ましく思えた。本作ではジャックの浮気は描かれず、ルイーズの孤独と浮気はしっかり描かれているので、女性観客には感情移入が容易だ。

 ルイーズの勝気なところ、ジャーナリストとして自立したいのに実は文才に自信がなくて気弱になるところ、自由恋愛主義者といいながらジャックの浮気に激怒するところ、いろんな場面でルイーズの個性が(ダイアン・キートンの演技が)光っていた。心が離れてしまった二人が、ロシア革命を共に目撃することで絆を取り戻す。その場面がやはり感動的だ。

 革命は革命家が行う。だが、その後は政治家と官僚の出番なのだ。ジャックはその器ではなかった。熱に浮かされたような革命家の夢は現実の厳しい政治の前には打ち砕かれ冷まされてしまう。そのようなジャックの焦燥を黙って見つめているルイーズ。彼女もまた彼の絶望を共にしながら、結局二人にはなすすべはなかった。本作で描かれたルイーズは行動的な女であり、自立を渇望し、困難に立ち向かい、行方不明の夫ジョンを探して遠い異国の雪の荒野を果敢に歩むような人物だ。その勇気と一途さに感動するととももに、彼女の弱さや愚かさもまたルイーズをとても身近な人として感じさせる。ジャーナリストとしては遥かにジョン(ジャック)・リードのほうが器が大きかったのだろう、彼女がジャックに感じた尊敬とおそらく軽い嫉妬、意地、のようなものがとてもよくわかる。

 自立した女でありながら実はジャックに依存している自分のことを自覚していたのかどうか、彼女はジャックの不在中に彼の親友で劇作家のユージン・オニールと浮気する。ルイーズの心細さ、側にいた個性的な男にいっとき惹かれてしまう気持ちもわかる。ジャック・ニコルソンにしては抑えた演技だったユージンの辛辣で皮肉屋の個性も際立っていた。

 ニューヨークの知識人たちはいみじくもユージンが指摘したように、「革命を口にしながら自らは中産階級的生活を捨てない」、典型的なプチブルだ。自由恋愛を主張しながら嫉妬で怒りが爆発するルイーズにしたところで、思想と心が引き裂かれている。そんな彼らの夢も理想も甘さも苦さもこの映画は描いた。

  この映画をいま再び見ることができてよかった。若い頃なら味わえなかった感動と余韻を今なら噛み締めることができる。


 ルイーズの余生が気になって仕方がないので、少し調べてみた。ジャックの死後、ルイーズは外交官と結婚して娘をもうけ、すぐに離婚した。その後、パリに住み、女性運動などにかかわり、アルコール依存症に苦しみながら1936年にパリで死去した。享年50歳。

 彼女の「ロシアの赤い六ヶ月」という作品はこちらで読める。
 http://www.marxists.org/archive/bryant/index.htm


 また、後にノーベル賞作家となったユージン・オニールがルイーズの思い出を書き残している。


 ジョン・リードの伝記など、この映画の関連本については別エントリーで。

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REDS
アメリカ、1981年、196分
製作・監督: ウォーレン・ベイティ、製作総指揮: サイモン・レルフ、撮影:ヴィットリオ・ストラーロ、音楽: スティーヴン・ソンドハイムデイヴ・グルーシン
出演: ウォーレン・ベイティダイアン・キートンジャック・ニコルソン、エドワード・ハーマン、イエジー・コジンスキー、モーリン・ステイプルトン