吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

かもめ食堂

 

アキ・カウリスマキ監督の「過去のない男」に主演していたマルック・ペルトラが登場した瞬間に、「あ、どこかで見たことあるなぁ、あ、あの男やんか!」と懐かしく思ったが、その男の名前がなんだったのか思い出せない。当然だ、「過去のない男」には主人公に名前がなかった。「かもめ食堂」でもやっぱり最初のうち、名前が出てこない正体不明の男だ。  日本映画なのに、全編フィンランドでロケされたという珍しい作品。主演3人の女優がそれぞれの持ち味をいかして小気味よい作品に。いかにもフィンランド、という雰囲気をほんわかとかもし出して典型的「癒し系」映画になっております。


 さて物語は…
 日本から単身やってきてヘルシンキで「かもめ食堂」というレストランを開いたサチエ(小林聡美)だが、開店一ヶ月、一人も客はやってこない。今日も独りせっせとテーブルを拭きグラスを磨く彼女を店の外の通りから眺めてはくすくすと笑う老婦人3人が通り過ぎる。そんなある日、サチエは偶然知り合った日本からの旅行者ミドリ(片桐はいり)を「拾って」、自分の部屋に泊めることになった。ミドリはかもめ食堂を手伝うようになり、唯一の常連客になった日本びいきの青年トンミとのディスコミュニケーションが生み出す一種独特の楽しい会話を交わす。そこへ加わるのがやはり日本から単身旅行にやってきた中年女性マサコ(もたいまさこ)。さてこの3人がやり繰りする「かもめ食堂」に客はやって来るのだろうか?


 面白いのは、原作が群ようこの小説なのだが、企画は映画のほうが先にあって、群ようこは映画のために原作の小説を書き下ろしたということ。こういうケースもこれから増えてくるのだろうか。
 
 およそ現実味のまったくない物語の展開は、慌しい日常に疲れた大人のための寓話だ。過去に何があったのか互いに語りもせず訊きもしない女3人が異国の地で出会って、礼儀正しいつきあいを始める。それだけでも十分妙なのだが、このかもめ食堂にポツポツとやって来る人たちもなんだか妙。

 かもめ食堂で提供される料理はどれもこれもごく一般的な家庭料理だ。だが、それのなんと美味しそうなことか。サチエが一つ一つ丁寧に作っていくその料理を見ていると、食べたくてたまらなくなる。ぞうりのように大きな豚カツや衣にきれいな色のついた鶏空揚げを丁寧に鍋から上げていくその手つきがとても好ましい。プロの手際のよさとは違う、けれど素人のたどたどしさではない絶妙な手つき。メインメニューの「おにぎり」がまた美味しそうなのだ。一つ一つ手できっちりと握っていく感じも、とてもいい。板前の握り寿司とはまた違う、「お母さんのおにぎり」を思い出して懐かしい。

 人々の笑顔や会話の間合いがなんともいえず間延びしていて、しかもだれることなく、ユーモラスだ。明るく楽しい笑い、ふっと笑みが漏れるような笑いなのだ。心が爽やかに温かくなるような笑い。かもめ食堂のガラス張りの外観もまた、外に向かって開放された明るい雰囲気で、あまりヨーロッパ的ではないように思う。この国籍不明なところがわたしにはとても好ましい。

 ああ、こんなところでこんな御伽噺を観て癒されていていいのだろうか……という疑問もふとわいたりするけれど、とても楽しい映画なので、ぜひどうぞ。
 そうそう、劇場で買ったパンフレットがなかなか凝っていて楽しい。鞄の形にカットされた冊子で、空港でよく鞄につけるようなタグ付き。

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ROUKALA LOKKI
制作年 : 2005
上映時間:102分
制作国:日本
監督・脚本: 荻上直子
エグゼクティブプロデューサー: 奥田誠治ほか
原作: 群ようこ
音楽: 近藤達郎 
出演: 小林聡美 サチエ
    片桐はいり ミドリ
    もたいまさこ マサコ
    ヤルッコ・ニエミ
    タリア・マルクス
    マルック・ペルトラ