吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

真夜中のピアニスト

 手持ちの<寄り>の画面が延々と続く、いかにもって感じのフィルム・ノワール風味のフランス映画。手振れが大きいので目が疲れてしまう。体調を整えてみないと寝てしまうかも。

 28歳のトム(ロマン・デュリス)は不動産ブローカーという名のやくざまがいの仕事に就いている。立ち退き屋、というのか、いつまでも居座り続ける住人を追い出すために鼠を放ったり室内をめちゃくちゃに壊したり暴力で脅したりするのだ。立ち退かされるのは安アパートに住むアフリカ系移民たち。先日、移民社会フランスで「暴動」が起きたばかりだから、こういう場面にはすごくリアリティがある。カメラもドキュメンタリータッチ、乾いた質感で薄暗い室内を映し出す。フィルムから鄙びたフランス映画の香りが漂ってきて、すごく懐かしい感じがする。若い頃、こういうフランス映画のヤクザものを何本か見たような気がするのだ。

 トムは父親の影響でそんなやばい仕事をしているのだろうか、父もまたヤクザまがいの不動産ブローカーで裏世界の連中とのかかわりもある。亡くなった母はピアニストだった。トムもまたピアニストになる夢を持っていたのにもう10年も前にピアノはやめてしまった。だが、ある日偶然母のマネージャーだった男に再会してオーディションを受けろと勧められる。ピアニストになる夢が突然甦ってきた。オーディションを受けるためのレッスンは昼間、中国人留学生のミャオリンという将来有望視されている女性から受けることにした。
 こうしてトムの二重生活が始まる。仲間たちとのヤクザな仕事の合間にピアノを弾くトム。練習を見てくれるのはフランス語がしゃべれないミャオリン。彼の引き裂かれた生活はどうなるのだろうか……


 なんで「真夜中のピアニスト」なのかさっぱりわからないけれど、ピアニストとしての明るく繊細なトムと、汚い正業のイメージをだぶらせてこういう邦題になっているのだろう。夢と現実が引き裂かれていくことはままあることだ。ピアノを弾くときの彼は繊細で、ときに言葉の通じないミャオリンと諍いながらも美しく清廉なバッハの音楽のような気持ちが彼の元を訪れるのだろう、とても穏やかで幸せそうな表情をしている。だが、彼の生活のほとんどが暗い仕事をこなすことで成り立ち、彼の恋愛もまた仕事仲間の妻との不倫という未来のないものだ。
 青春の終わりに近づく年齢のトムが、未来へと引き裂かれていくやるせなさや悲しさ切なさがじわっと染み出てくる物語。

 ロマン・デュリスは「ルパン」のときよりずっと魅力的だ。彼はこれからが楽しみな役者。ロマンくんの好演に期待値を込めて☆一つアップ。不思議なざわめきを心に残すラスト。この不安げなラストシーンにカタルシスを得られない不満が残りつつ、それがまた後を引く憎い終わり方だ。

ちなみに、これはアメリカ映画「マッド・フィンガーズ」(1978年、ジェームズ・トバック監督)のリメイクなんだけど、オリジナルを見ていないので比較してのコメントはできません。

DE BATTRE MON COEUR S'EST ARRETE
制作年 : 2005
上映時間:108分
制作国:フランス
監督・脚本: ジャック・オーディアール
製作: パスカル・コーシュトゥー
脚本: トニーノ・ブナキスタ
オリジナル脚本: ジェームズ・トバック
音楽: アレクサンドル・デプラ
出演: ロマン・デュリス
    ニールス・アルストラップ
    オーレ・アッティカ
    エマニュエル・ドゥヴォス
    リン・ダン・ファン
    ジョナサン・ザッカイ
    ジル・コーエン