吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

バリー・リンドン

 18世紀アイルランドに生まれた男レイモンド・バリーが放浪の末バリー・リンドンを名乗るようになる、その数奇な運命を描く。

 まだ少年のレイモンドは年上の従姉妹に誘惑され、彼女を熱愛するが、彼女は別の男の求婚を受け入れてしまう。その婚約者たる軍人と決闘の末、故郷を追われたレイモンド・バリーは、その後ヨーロッパ各地を点々とする運命にあった。
 レイモンドが生まれてまもなく夫を亡くし再婚せず彼を育てた母が渡してくれたなけなしの20ギニーを追い剥ぎに遭って盗られてしまい、仕方なく彼は傭兵になったが戦争に嫌気がさして脱走、しかし結局はプロシア軍の兵士にさせられてしまい、うまく上官のご機嫌を取り結んで覚えめでたく、戦争が終わってからはドイツで警察の手先となる。ところが、スパイせよと命じられた被疑者の老賭博師シュバリエがアイルランド出身であったことから、望郷の念断ちがたく寝返ってしまう。
 やがてシュバリエとともに賭博師としてヨーロッパを旅するようになったレイモンドは、更なる富と安定した地位を求めて美しい貴婦人リンドン夫人に近づき、まんまと彼女の心を射止める。うまいぐあいに年老いたリンドン伯爵はぽっくり亡くなり、レイモンドは晴れて夫人と結婚し、バリー・リンドンを名乗るようになった。だが運命は必ずしも彼に味方しなかった……


 似たような西洋時代劇大河ドラマポランスキー監督の「テス」があるが、同じように淡々と撮っているにもかかわらず、どうして受ける印象がこれほど違うのだろう。まったく似て非なる出来栄えである。「テス」はナスターシャ・キンスキーの美貌がなければ見るところのほとんどない映画だったが、本作は違う。役者の魅力や演技力に頼らずこの長尺を飽きさせずに見せたのはお見事だ。室内の撮影には蝋燭だけの明かりに頼ったという懲り方も、あとからそうと知って初めて驚愕するが、見ている間はちっとも気づかなかった。
 キューブリックが淡々と撮っていると感じるのは、その計算され尽くした構図を観客に意識させないほど彼が上手いのだろう。登場人物の心理描写がほとんどないにもかかわらず物語にのめりこんでいくし、うざったいほど詳しく入るナレーションも効果的で、描かれていないはずの心理がなぜか観客に伝わる。18世紀の人物を描いているにもかかわらず、主人公バリー・リンドンの欲望や葛藤が今の時代と通底しているからだろう。

  とにかく映像はきれいだし、美術は懲りまくりでため息が漏れる。長いけど、絶対飽きないのでぜひご覧あれ。ラストは切なく、無常観が漂っていて、キューブリックの哲学が垣間見える。(DVD)

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BARRY LYNDON
制作年 : 1975
上映時間:186分
制作国:イギリス
監督・脚本: スタンリー・キューブリック
製作: スタンリー・キューブリック
    バーナード・ウィリアムズ
原作: ウィリアム・メイクピース・サッカレー
音楽: レナード・ローゼンマン
出演: ライアン・オニール
    マリサ・ベレンソン
    パトリック・マギー
    スティーヴン・バーコフ
    マーレイ・メルヴィン
    ハーディ・クリューガー
    レナード・ロシター