吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白

  フォード社の社長を5週間で辞めてケネディ政権の国防長官に就任し、ジョンソン政権下でも働き(その後辞任)、世界銀行総裁を務めたロバート・マクナマラ87歳の証言。  マクナマラは90歳近いというのに頭脳は極めて明晰、記憶は鮮明、数字もスラスラと口をついて出てくる、怪物のような老人だ。ハーバード大学で最も若い助教授だったというからその秀才ぶりは推して知るべし。彼の専門は統計経営学だった。科学的統計を駆使して経営管理に適用する。まあ、合理的経営の権化みたいな人物だったのだろう。  だから、第2次世界大戦中には米軍の飛行士たちが敵を攻撃せずに逃げ帰ってくる理由を調査し、その対策を科学的に発案しようとする。

 彼の証言は極めて理性的でよどみなく、信念に基づいて「これだけは絶対に言い遺したい」という思いが伝わってくるものだ。彼はアメリカ合衆国の国防長官という「戦争の権化」のような男だったにもかかわらず、今になって「平和の使者」のようなことを言う。

「戦争をしてはならない」

「一晩で子どもも含めて10万人を殺すようなこと(東京大空襲を指す)は許されない」

「自由のための戦争だからといって原爆を使ってもいいのか」

 と、彼は戦争を憎む発言を繰り返す。そして、自分たちが行ったベトナム戦争について「間違いだった」と率直に認める。

 「キューバ危機」事件に関する証言がもっとも生々しく興味をそそった。生々しい映像や、当時の大統領との会話などのテープが残っているので、臨場感がある。日本の料亭政治と違って、アメリカでは大統領にかかってきた電話や会話は録音され、時期が来ると公開されるのだ。アメリカというのは確かに「民主的」な国ではあるな。

 キューバ危機といえば映画「13DAYS」。あの映画でもガマ蛙みたいな顔と図体の好戦的将軍がキューバ産葉巻を咥えながら「いてまえ!」とわめていたが、それがルメイ将軍だったのか。このインタビューでルメイの名は何度も登場し、しかもミソクソにけなされている。また、ずいぶん後になってマクナマラカストロと会談したときに、キューバに核弾頭が配備されてることを知っていたカストロは「それを使えとフルシチョフに進言していた」という発言を聞いて仰天したという。

 今になって過去の過ちを率直に認めることは潔いのかもしれないが、結局のところ、彼は自分の価値観を否定してはいない。ただ、やり方がまずかったと思っているだけというように見える。冷戦の只中で引き受けた国防長官という重責を負い、彼は目の前の懸案事項をさばくのに精一杯だったのだろう。その任期中に3度、(ソ連との)戦争の危機があったという。それを回避したことを誇りに思っているようだ。  ただ、最後の肝心の質問には口を閉ざして答えない。

 この映画は「マクナマラに学ぶ11の教訓」というサブタイトルがついていて、その内容はまるでビジネスマンのための人生訓みたい。ただし、外交などの交渉術には確かに有効だろう、たとえば教訓1は「敵の身になって考えよ」というもの。これは「相手に思いやりを」という意味ではない。相手が何を求め何を怖がっているか、相手の立場にたって考えてみよということだ。これは今の対北朝鮮外交などに活かせる教訓である。  前半かなりおもしろかったが、どうもこのインタビューは長くていけない。だんだん退屈してきて、最後のほうは居眠りして見逃してしまった(^_^;)。

 マクナマラのような聡明な人間が自分の発言の与える影響や政治力について計算しないはずがない。なぜ彼が今こういう証言をしたのか、それをこそきちんととらえる必要があるだろう。心から戦争を憎み反省したのか、アメリカのイラク戦争への批判なのか、もう少し情報がほしいところ。(レンタルDVD)

THE FOG OF WAR: ELEVEN LESSONS FROM THE LIFE OF ROBERT S. MCNAMARA

制作年 : 2003

上映時間:106分

制作国:アメリカ合衆国

製作・監督: エロール・モリス

撮影: ロバート・チャペル     ピーター・ドナヒュー

音楽: フィリップ・グラス  

出演: ロバート・マクナマラ