吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

突入せよ!「あさま山荘」事件

 1972年2月、日本中の耳目を集めたあさま山荘事件をテレビで見ていたわたしは、13歳の中学1年生だった。あの報道は退屈だった。延々と山荘が映し出されるだけの膠着状態。あの事件に関する記憶はほとんど残っていない。それよりも、同志殺害事件のほうが衝撃的だった。


 世間的には、あさま山荘事件がまず起こり、続いて犯人達が逮捕されて同志殺しの連合赤軍事件が発覚したのである。
 だが、事件の起きた順番は逆だ。まず連合赤軍の山岳ベースでのリンチ殺人があり、彼らが警察に追われてアジトを転々としながらばらばらに逃走し、そのうち何人かは警察に逮捕され、逃げ延びた5人があさま山荘に立てこもって警察と銃撃戦を繰り広げたのである。この映画にはそういった説明はもちろんのこと、そもそも連合赤軍とは何者かという解説もなければ、彼らの姿さえ見えない。徹頭徹尾警察側の事情だけを描いていて、いっそ潔い。

 「こんな映画、警察がええかっこするだけの作品だから腹が立つ」とか、「警察官僚佐々(さっさ)が正義漢ぶるのが鼻につく」などと思う人は見ない方がいい。本作では人質をとってたてこもる連合赤軍はもちろんテロリストであり、彼らは疑う余地もなく悪者であり、彼らと対峙して戦った警視庁の警察官達は勇敢なヒーローなのだ。その基本構図に文句を言っても始まらない。これはそういう映画であり、違うものを見たければ、「光の雨http://d.hatena.ne.jp/ginyu/20020614を見るべし。


 この作品は、誰もが結末を知っているのに最後まで手に汗握って観てしまうおもしろさがある、よくできた娯楽作だ。長野県警が徹底的にボンクラ扱いされていて、原作者かつ主役の警察庁幹部佐々淳行が一人かっこいい英雄で、よくもまあこれだけ戯画化できたもんだとあきれるぐらいにわかりやすくおもしろい構図が描かれている。あさま山荘に突入してまでも殴り合いの喧嘩をする警察同士のなわばり争いとか、田舎者のくせにプライドと地元意識だけは強い長野県人とか、どこまでが真実なのか疑わせる場面も多々あるが、かなりの演出が入っているとはいえ、最後まで警察内部のゴタゴタを見せておもしろおかしい。
 要するに、地方の時代だの地方分権だのというのはちゃんちゃらおかしい主張であり、やはり中央がしっかりせねばならないという中央集権イデオロギーをプロパガンダしたかったのだな、佐々淳行は。過激派が過激になるほど、こういう人物は嬉しくなるものなんだろう。さぞかし今やサヨクもだらしなくなったと嘆いているに違いない。


 最後の逮捕の瞬間にだけ登場する連合赤軍の兵士たち、彼らの側からの物語をぜひ映画化してほしいと思う。「光の雨」がその嚆矢となった。続編はあるのか?
 佐々淳行の自慢話がいやな人は見ないでおきましょう。昔の男は一生懸命頑張ったんだよ、今だって頑張ってるぞ、正義のために。なあんて思ったら佐々の手に落ちてるぞ。ぼろかすに描かれた長野県警の皆さん、今でも生きてたらこの映画を見て憤死するかも。(レンタルDVD)


 ※映画関連本のお薦めは坂口弘著『あさま山荘1972』。永田洋子の『十六の墓標』よりはるかにすぐれた連合赤軍事件の総括書です。『兵士たちの連合赤軍』 ( 植垣康博著)も悪くない。

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133分、日本、2002
監督・脚本: 原田真人、原作: 佐々淳行連合赤軍あさま山荘」事件』、撮影: 阪本善尚、音楽: 村松崇継
出演: 役所広司、宇崎竜童、伊武雅刀天海祐希椎名桔平武田真治藤田まこと