吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

福田村事件

関東大震災から百年を期して、ついに朝鮮人虐殺事件がテーマとなる作品が公開された。ドキュメンタリー監督として高名な森達也がどうしてもドラマとして撮りたかったというのは、日本人9名が朝鮮人と間違えられて惨殺された福田村(現・千葉県野田市)事件で…

ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード

というわけで、前作が面白かったので、ついつい二作目も続けてみてしまった。この続編のほうは劇場公開されている。主役3人組は相も変わらず濃いキャラを展開しているうえに、ゲストの役者も豪華。 不死身の殺し屋ダリウス・キンケイドとその妻ソニアに振り…

ヒットマンズ・ボディガード 

どうせくだらないアクション映画なのだろうと高を括って見始めたところ、確かに単なるアクション・コメディ映画なのだが、これがまた面白いから油断ならない。セリフもけっこう含蓄があって、なかなか見せるではないか。で、続編もできているという。 さて物…

モリコーネ 映画が恋した音楽家

ジュゼッペ・トルナトーレ監督のエンニオ愛に溢れた映画。とにかくトルナトーレはモリコーネを好きでたまらないのだろうと思わせる。彼の長編デビュー作以外の全監督作、つまり「ニューシネマ・パラダイス」以降のすべての作品の音楽担当はモリコーネである…

バービー

まさかの「2001年宇宙の旅」! これで幕を開けるとは予想外だったので、驚くやら笑うやら。以下全編、どこかでみたことのある風景やどこかで聞いたことのある音楽やどこかで見たことのあるダンスシーンが繰り広げられる。これほど既視感が強い映画なのに、見…

ドント・ウォーリー・ダーリン

既視感の強い、1950~60年代アメリカ郊外の美しく整序された街並み、高級車、美しい妻たち。まるで映画「レボリューショナリー・ロード」のようではないか。夫たちはみな同じ会社、ビクトリー社に勤めていて、その会社は砂漠のど真ん中にある。妻は全員専業…

アルピニスト

わたし自身は絶壁をよじ登るなんて絶対にしたくないし、登山もそれほど好きではないのだけれど、超人的な登山家の映像を見るのはなぜか好きだ。これはどういうことだろう。自分では全くジョギングすらしない人でもマラソンや駅伝は一生懸命見たり応援したり…

怪物

この映画は二か月ぐらい前に見たので細部を忘れてしまったが、映画ファンの集まる食事会でお題に取り上げられたので、参加者全員でやいのやいのと議論が沸騰した。毀誉褒貶が激しい作品でもあった。 本作は脚本が是枝さんではないので、かなりこれまでの作品…

君たちはどう生きるか

ほぼ一切宣伝しないという戦略が当たったようで、劇場は大入り満員とか。わたしが見た回はそれほど混んでいなかったし、観客は高齢者が多かった。これは古くからのジブリファンへのサービスのような作品だった。絵の素晴らしさは言うまでもない。この風景、…

ザリガニの鳴くところ

とても見ごたえのある作品。さぞや原作が優れているに違いない。見終わるや否や原作が読みたくなる。 そして、その原作は超人気作のようで、大都市の図書館では予約が111件ついており、いつ借りられるんだろうと思っていたら、なんと某大学では誰も借りてい…

インディ・ジョーンズと運命のダイヤル

巻頭からいきなりのアクションアクションでインディ・ジョーンズの健在ぶりを発揮! と思ったけれど、これは第2次世界大戦末期の若き日のインディの姿であった。時代はそれから四半世紀下って1969年。「現在」のインディは引退直前の70歳の老教授である。い…

わたしたちの国立西洋美術館

東京は上野公園にある国立西洋美術館は、日本で唯一の西洋美術史が俯瞰できる美術館だ。著名な建築家ル・コルビュジエが設計した建物は、2016年に世界遺産に登録されたのを機に創建当時の姿に復元されることとなった。カメラは工事が始まる直前の2020年6月か…

1950 水門橋決戦

ほぼ全編眠っていた「1950 鋼の第7中隊」の続編。なぜかこちらの作品はまったく眠ることなくちゃんと見通した。で、やっぱりわかったことは、「朝鮮戦争」なのに、朝鮮人がまったく登場せず、北の軍隊も南の軍隊もどこにいるのか?! 戦争は中国とアメリカで…

99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE

人気テレビドラマの映画化らしいが、そもそもテレビ放送を見ないわたしとしては、そんなことは一切知らない(テレビは見ないのだが、ネットニュースでテレビ放送はある程度把握しているし、ドラマはAmazonなどで後追いで見る)。 この作品の基本のドラマ部分…

せかいのおきく

肥汲み人たちが主人公になる映画なんて本邦初ではないか。差別され蔑まれる彼らを主役に置き、その一人に恋する落ちぶれた武家の娘が声を失っているという設定は、幾重にも「欠落」や「スティグマ」を表現している。 映画に匂いがなくてよかったとわたしは心…

The Son/息子

父と息子、孫という3代にわたる葛藤が描かれる、重い映画。ポスターにはヒュー・ジャックマン演じる父親と息子が哄笑している場面が使われているから、明るい結末が予想されるのだが、実際には大変つらい映画だった。 物語は。高校生ニコラス少年の離婚した…

ユーリー・ノルシュテイン傑作選

ロシアのアニメ作家ユーリー・ノルシュテインの1960年代から70年代にかけての短編を集めて日本で修復したという「傑作選」。アニメの芸術性の高さに驚嘆した。特に二つ目の動く宗教画とも呼ぶべき「ケルジェネツの戦い」は、ひとつずつのシーンがそのまま額…

ワタシタチハニンゲンダ!

髙賛侑監督の作品としては「アイたちの学校」に続く第2作。現在進行形の事実に迫ったドキュメンタリーであり、衝撃の場面も「よく映像が入手できたなあ」と驚くばかり、見ごたえのある作品だ。 2021年3月、若きスリランカ人女性のウイシュマ・サンダマリさん…

ノートルダム 炎の大聖堂

文化財を保全する意義を語る講義のネタにと思って見た映画なのだが、予想以上に面白く、胸が熱くなる作品だった。 「タワーリング・インフェルノ」「バックドラフト」「バーニング・オーシャン」といった、消防士や火災を扱った映画はいくつか見てきたが、こ…

うつろいの時をまとう

着物と洋服を融合させたデザインという理解ではあまりにも浅薄すぎる、「matohu」(まとう)というブランドを2005年に立ち上げた二人のデザイナーを映すドキュメンタリー。 巻頭、静かなピアノの音色と共に展覧会の様子が映る。20年に東京で開催された…

エノーラ・ホームズの事件簿2

シリーズ第2作。イギリス労働運動史上名高いマッチ女工ストライキを題材にしている、労働映画である。第1作にも勝るとも劣らない面白さ。これは第3作もぜひ作ってほしいものだ。 マッチ女工ストライキは1888年に起きたのだが、シャーロック・ホームズの時代…

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

この映画は編集が大変だったろうなあという感想がまずは湧く。で、アカデミー賞では編集賞受賞。やっぱり。この映画は小道具とか衣装デザインも力はいってるなあ。で、衣装デザイン賞ノミネート。主演のミシェル・ヨーってもう60歳なのによくこれだけアクシ…

エノーラ・ホームズの事件簿

かのシャーロック・ホームズには実は年の離れた妹がいた、という架空の設定で展開されるお話。そもそもシャーロック・ホームズが架空の人物なのだから、そのシャーロックに妹がいたとかいないとか全部架空だから。しかしシャーロック・ホームズほどの有名人…

AIR/エア

強烈に印象に残っていることが一つ。この映画のテーマが「言葉」であること。「言葉の持つ力」こそが勝利/栄光/利益/権力の源泉であることを活写している。 業績不振のナイキ社を立て直した「エア・ジョーダン」というスポーツシューズを生んだソニー・ヴァ…

かがみの孤城

原作は圧倒的な得票数で本屋大賞を獲得したファンタジー小説だそうな。なるほど、こういうファンタジーこそアニメにふさわしい。そして、鑑賞後のこの感動は原作の良さを実感させる。しかし、だからといって原作小説を読みたいという気にさせないということ…

ハケンアニメ!

ハケンは派遣じゃなくて覇権だった。この映画を去年のうちに劇場で見ていたら、「本年の日本映画ナンバー1!」と叫んでいたかもしれない。 柄本佑がかっこいいと思った初めての作品として特記すべきか。なんで今まであんなにかっこ悪い役しか演じてなかった…

PLAN 75

タイトルである「プラン75」というのがいったいどのようなものなのか、映画の中ではほとんど詳しい説明がない。冒頭で、プラン75が国会で可決されたという聞き取りにくいニュースが流れるだけだ。しかし、映画の随所で「PLAN75」と書いた幟やポスターが目に…

千年女優

これはいかにもアニメらしい作品で、時空間を飛び越え、映画の垣根も飛び越える楽しくも切ない物語。 原節子がモデルになっているのだろうと思わせる、人気絶頂期に忽然と引退した女優・藤原千代子の自宅を訪問する映画製作会社の中高年社長が狂言回し。彼が…

フェイブルマンズ

映画ファンでなくともその名を聞いたことはあるはず、という超有名なスピーヴン・スピルバーグ監督の伝記的映画。本人が脚本と監督を務めているのだから、どれほど思い入れが強いか想像に難くない。しかし本作は天才少年が成功する上昇物語ではなく、家族の…

ホイットニー ~オールウェイズ・ラヴ・ユー~

先日、ホイットニーの伝記映画を見たばかりなので、彼女の実像に迫るドキュメンタリーであるこの作品にも大いに興味をそそられた。あの悪名高き元夫のトム・ブラウンも登場してインタビューに答えているが、肝心の質問には「答えたくない」を繰り返すばかり…