吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

映画

ラーゲリより愛を込めて

もう、「泣かせの瀬々」と呼んでもいいのではないか。劇場内はすすり上げる音が響く、ラスト数十分。だからこそ、賛否両論に分かれる本作だ。否定論者曰く開戦に至る経過が描かれていない、曰く日本人が被害者としてしか描かれていない、曰く北川景子に生活…

ヒトラーのための虐殺会議

1942年1月20日、「ユダヤ人問題の最終的解決」を議題とする会議がベルリンのヴァンゼー湖畔の邸宅で開かれた。主宰者は国家保安本部長官ラインハルト・ハイドリヒで、出席者は政府高官15名と議事録作成のために女性秘書が一人。ヒトラーは出席しておらず、こ…

ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY

"The Voice"とまで呼ばれた不世出の歌手の伝記映画。「ボヘミアンラプソディー」の脚本家が書いた脚本はしかし、あまり山と谷の組み合わせがはっきりせず、どこに山場を持っていってるつもりなのかがいまいち伝わりにくい。 さすがにホイットニーの声を再現…

チョコレートな人々

愛知県豊橋市が発祥の地である「久遠(くおん)チョコレート」は全国展開して50以上の拠点を持ち、障害者雇用の成功例として知られている。しかし最初からうまく行ったわけではない。代表の夏目浩次(45歳)は、地域最低賃金を上回る賃金を障害者に保証…

ファミリア

巨大自動車産業の町、愛知県豊田市にある保見団地には約8000人が住み、その半数が外国人でさらにその大半がブラジル出身者である。映画は巻頭、保見団地の建物を真上からドローン撮影し、外壁を舐めるようにカメラが滑り降りていくと、そこには仕事を終えた…

RRR

年間300本以上の映画を劇場で見るという人に薦められた映画。「とにかく映画らしい映画。見てほしい」と絶賛されていたので、「バーフバリ」を見て感動した(と言うより呆れた)わたしとしては、見ないわけにはまいりません! 今度の作品はバーフバリと同じ…

生きろ 島田叡 ―戦中最後の沖縄県知事

戦前最後の沖縄県知事・島田叡(しまだ・あきら)の知事としての最期の生きざまを記録映像と証言によって構成するドキュメンタリー。 島田は今でいうキャリア官僚なのに、リベラルな思想を持っていたためだろう、内務省の中央省庁には勤務したことがなく、地…

シカゴ7裁判

これは見ごたえある作品。脚本と編集がじつに巧みだ。冒頭、ベトナム戦争が泥沼になる時代の雰囲気を当時のアーカイブ映像で一気に見せる。1968年4月4日にはキング牧師が暗殺され、続いて6月にはロバート・ケネディが。そんな不穏な状況下に、8月には民主党…

ベルファスト

アカデミー賞脚本賞を獲ったことも納得の面白さ! ケネス・ブラナーの作品でいちばん見ごたえがあった。子ども目線で作られているとはいえ、実は各所でちゃんと大人の事情が挿入されているため、観客にも状況がよくわかり、配慮が行き届いている。 ケネス・…

大河への道

なんということもない映画だと思って見始めたが、意外な拾い物。最後は泣かされました。原作が落語だけあって台詞に勢いと面白味が多く、笑いながらも最後にほろっとさせるという心憎い作品。役者が全員、現代編と江戸時代編の二役を演じているのも面白い。 …

アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド

他者とは何かを考えさせられるラブ・コメディ。ドイツ人がイギリス人に恋するという設定が面白い。 理想の恋人をAIに演じさせるという実験に参加した中年女性科学者が、半信半疑の理想生活を続けるうちにこの「偽の恋愛感情」に疑問をもつ、というあらすじ。…

感染家族

今まで見たゾンビ映画で一番面白かったかも。とにかく笑った。もうあほらしい設定、あほらしい展開、あほらしい途中経過、あほらしい結末。すべてがあほらしくて笑える。 とある田舎町に突然現れた若いゾンビ。これがゾンンビのくせに弱くて、犬に追いかけら…

ナイブズ・アウト:グラス・オニオン

劇場公開していないのに、ゴールデングローブ賞などにノミネートされている。 「ナイブズ・アウト」で名探偵ブノワ・ブランを演じたダニエル・クレイグがこの作品でシリーズ出演するのだろうか? 今回もなかなか面白かった。 かなり早めに謎解きが始まるので…

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター

12年前に「アバター」を見たとき、その感想としてわたしは、「先住民を虐殺したアメリカ建国のトラウマを癒す物語。世間では3D映像の技術的なことばかりが取りざたされるが、この映画は<国民の歴史><アメリカ人の記憶>を鎮める役目を果たす映画なのだ。…

ハウス・オブ・グッチ

1921年に創業されたイタリアのグッチが世界のブランドとしてその名を馳せた時期に、同族経営の内紛から崩壊していくその過程を描いた作品。主人公は1970年代後半にグッチ家の御曹司と結婚したパトリツィア。上昇志向でギラギラした下品な女をレディ・ガガが…

オフィサー・アンド・スパイ

世に名高いドレフュス事件の真相を追う物語。巻頭に「本作はすべて史実である」という文字が流れる。 主人公はドレフュスの元教官であった陸軍大佐ピカールである。ユダヤ人という理由だけでスパイの冤罪を着せられたドレフュス大尉が軍籍を剥奪される式の場…

オールド

ナイト・シャマラン監督とは相性がいいのか悪いのか不明。当たり外れが大きいのだが、今回は割と当たりのほう。タイトルの「オールド」は「老化」という意味で使われている。 1日に50歳も歳をとってしまうという不思議な海岸があって、そこに閉じ込められた…

ザ・メニュー

世界一予約がとれないレストランといえばエル・ブリ。このレストランとシェフを取材したドキュメンタリー映画「エル・ブリの秘密」(2011年)を長男Y太郎(当時20歳の学生)と一緒に見たことを思い出す。そのエル・ブリも今は閉店している。 今回の主人公・…

老後の資金がありません!

老後は一人2000万円を用意しろとどこかの国の大臣が偉そうに言っていたことを思い出す。それは2019年に金融庁が発表した報告書に書かれていたこと。しかし今や、2000万円でも足りないというではないか。65歳までに4000万円を貯蓄しておく必要があるとか。そ…

ディアスキン 鹿革の殺人鬼

鹿革に異様な執着を抱く主人公の中年男が、大金をはたいて鹿革のジャケットを入手するところから映画は始まる。そして彼はそのお気に入りのジャケットを着こんで自家用車を一人運転して旅に出る。どこか知らない田舎町の小さなホテルで宿泊するのだが、鹿革…

囚われた国家

この作品を見てまず思い出したのは1980年代に日本でも放送されたアメリカのテレビドラマ「V」だ。エイリアンに占領された地球では、征服者に迎合する人間と抵抗する人々との闘いが描かれていた。して、本作もかなりそのテイストに近い。ただし、物語全体がと…

劇場版 きのう何食べた?

テレビシリーズもAmazonでちょっとずつ見ていた、けっこうお気に入りの作品。なんといっても美味しそうな家庭料理が毎回見られるのが嬉しかった。美味しそうでかつ、手ごろな材料を使っているから、「わたしにも作れそう」と思えるところがよい。 で、今回は…

アムステルダム

これは異色の歴史劇。面白いのになぜか劇場用パンフレットが作成されていない。残念である。 「ほぼ実話」というキャッチコピーが何度も踊る予告映像がFBなどで流れてきたが、「ほぼ実話」ということはつまり、実話に名を借りたフィクションということだな、…

レイニーデイ・イン・ニューヨーク

なぜウディ・アレンの作品に出てくる主人公はウディ・アレンみたいに見えるのだろう? 外見は全然違うのに、背中を少し丸めて早口でしゃべる様子、手振り身振り、全部ウディ・アレンやんか! でもティモシー・シャラメ君ですからね、ウディ・アレンとは似て…

めぐりあう日

エリザは理学療養士。どこか冷ややかな印象を受ける美しい彼女は8歳の息子と一緒にパリからダンケルクに引っ越してきた。パリには夫を残していて、もはや夫とは修復不可能な別居のように見える。養父母に育てられたエリザは実の親を探して故郷に戻ってきたの…

ある男

事故で突然亡くなった夫の氏名や経歴がまったく偽造されていたことを知った妻が弁護士に調査を依頼し、夫の過去を探っていくという物語。こういう粗筋なら、「嘘を愛する女」(2018年)など最近の日本映画も思い出す。 して、謎の夫の背景を調査していく城戸…

百姓の百の声

本作は、全国の農家を訪ねて、お百姓さんたちの創意工夫に触れていくドキュメンタリー。 いきなりの業界用語連発! 農業用語がわからない! 画面には疑問符が躍る。そう、わたしたちは農業を知らなさすぎる。これが巻頭に提示された問題だ。 ふだん何気なく…

アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台

騙された、と口あんぐりの呆れた結末。「予想外の結末があなたを待っている」とか「ラスト20分の感動」とかの惹句に煽られたのがいかんのか、感動の方向がまったく違ったことに呆然。映画を見終わった後のわたしの感情は激しく揺れ動き、驚きから怒りへ、そ…

サハラのカフェのマリカ

かつて、「バグダッド・カフェ」という映画があって、名作との世評が高かったのだけれど、わたしは何度見てもこの映画は途中で爆睡してしまって最後まで見た試しがない。なので、今回のサハラのカフェもきっとそういう映画に違いない、と見る前からもう爆睡…

とんび

2度テレビドラマ化されて、今度は映画。三度も映像になっているのだから、原作小説はさぞや売れたのだろう。 で、今度は瀬々敬久監督。瀬々さんはいつから人情物の人になったんだろう。いやまあ、実にうまいじゃないですか。何度も泣かされましたよ。泣きの…