吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

薄氷の殺人

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 ファム・ファタールもの。「薄氷の殺人」とはうまく題名をつけたもので、舞台は雪が積もる中国の地方都市、季節は冬。主人公たちは野外スケート場でたどたどしい足取りで滑走している。殺人はそのスケート靴にからんで起きる。
 巻頭、ほとんどセリフがなくしかも淡々と物語が進むため、展開がよく理解できなかった。そのうえ人物の顔の見分けもよくわからない。やむなくこの最初の場面は繰り返し三回も見る羽目になった。酔っぱらっていなければもう少しちゃんと見られたのかもしれない、と反省。
 画面作りにはかなり凝っていて、カメラワークも斬新だ。神の目線のカメラの動きが突然登場人物の主観に変わり、その直後にまた神の目線に変わる。しかもカメラをUターンでパンさせながら撮影されている。それは雪の道路でのカメラの動きで、ここは真っ白い道路に足跡やタイヤ跡が残り、泥酔した主人公の黒い姿が情けなく映る、印象的な場面だ。実はこの場面では、巻頭の1999年から2004年へと時制がジャンプしている。
 また、フィルムノワールのような暗い場面も多くて、独特のけだるい雰囲気を持っている。ストーリーは説明的には進まず、様々な「雑音」とも呼ぶべき奇妙なシーンが挟まりながら徐々に展開する。まともに考えたら絶対に説明がつかないと思えるような箇所が随所にあり、たとえば、警官を辞めたはずの男がいつまでも捜査に介入するというおかしなことを誰も不思議に思わないのが不思議だ。
 犯罪の中心にいるのは若く美しい女。その女に惹かれていく主人公はいつまでも彼女を追いかける。なんとかして彼女を救いたい。守りたい。その気持ちから彼はなんでもする。犯罪にだって手を染める。けれど、この愛が成就するなんてとても考えられない。堕ちていく二人には何が待っているのだろう。
 バラバラ殺人、暴力、薄汚い中年男、といった華やかさがみじんもない映画なので、こういう作品が好きな人は猛烈に好きだが、たいていの人には受けない。大いに人を選ぶ映画なので、選ばれたかどうかを確かめたい方にはぜひお薦めしたい。ベルリン国際映画祭金熊賞受賞。(U-NEXT)

白日焔火
109分、中国/香港、2014
監督:ディアオ・イーナン、撮影:トン・ジンソン、音楽:ウェン・ジー
出演:リャオ・ファン、グイ・ルンメイ、ワン・シュエビン、ワン・ジンチュン

デトロイト

 1967年、全米最大の黒人暴動が起きた都市デトロイトを舞台にした、悪夢の一晩を描いた実録もの。主役はジョン・ボイエガが演じる警備員のはずだが、全然活躍の場がない。最後まで異彩を放っていたのは若き悪徳警官の人種差別者を演じたウィル・ポールターである。その憎たらしい顔は忘れられない印象を残した。

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 キャスリン・ビグロー監督の作風は相変わらずのリアリティ重視なので、陰惨な事件は陰惨なままに描くから、見ているのが大変つらい。暴動のさなかに恐怖にかられた白人警官が歪んだ正義感を振りかざして黒人たちを追い詰め、非道な尋問を行うという状況は誰にとっても不幸なものだった。なによりも、暴行され血まみれになり恐怖の一夜を過ごすことになった若者たちにとって。観客もまたその恐怖に叩き込まれる。
 いまだにアメリカでは白人警官による黒人射殺などの事件が後を絶たない。だからこの作品をいま作ることの意義はあるのだろう。とはいえ、そもそも事件が起きるまでが長い。起きてからの恐怖の尋問シーンが長すぎる。見終わったらへとへとになってしまった。それほど、この恐怖は身近に実感できるものだった。不当な尋問で死の恐怖を味わう黒人たちの状況は手に取るようにわかるし、役者たちの震えや汗や血の臭いまで漂よってきそうなリアルな映像づくりには圧倒されるが、恐怖はそれだけではない。白人警官たちの恐怖もまた伝わるのだ。許しがたい差別者であり、無抵抗な黒人たちにとっては権力の暴力装置である警官が、実は彼らなりに恐怖にかられていることもまたウィル・ポールターの怪演で観客に伝わる。
 白人警官によって拷問のような取り調べを受けたのは黒人青年たちだけではない。白人女性2人もまた殴られ、売春婦と罵られ、辱めを受けた。黒人と白人の女、あまりにもわかりやすい弱者が虐待されたこの事件の後味は悪い。いくら実話といえども、ここには何の救いもない。必見作の一つとは思うが、個人的には二度見る勇気はない。(レンタルBlu-ray

DETROIT
142分、アメリカ、2017
監督:キャスリン・ビグロー、製作:ミーガン・エリソン、キャスリン・ビグローほか、脚本:マーク・ボール、撮影:バリー・アクロイド、音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演:ジョン・ボイエガ、ウィル・ポールター、アルジー・スミス、ジェイソン・ミッチェル、ジャック・レイナー、ベン・オトゥール

ミッションインポッシブル フォールアウト

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全編山場! 山場しかない。次から次へと山場! 観客が疲れ果ててごめんなさいもう許してというまで山場が襲ってくるという恐るべき映画。しかもほとんどのアクションスタントをトム・クルーズ自身が演じているというプロ根性にも脱帽。なんでそんなべらぼうに保険金がかかりそうなスタントを彼ができるのかといえば、本人が製作者なんだ。なるほど。
 このシリーズもついに6作目。シリーズの中で本作はかなりよくできていると感心した。第1作に次いで面白かったのではないか。毎回必ずといっていいほどバイクチェイスの場面が登場。今回はパリの街中を疾走する大活劇が見られるのが楽しい。
 気になるのは、プルトニウムの扱いが杜撰なこと。そんなもの、いくら鉛の容器に入っているからといって防護服も着ずに触るなんて信じられない!
 トム・クルーズ演じるイーサン・ハントのライバルとしてCIAから凄腕エージェントが送り込まれてくる。これが「スーパーマン」のヘンリー・カヴィル。大変ガタイがよく、トム・クルーズと張り合うシーンが見どころの一つとなっている。
 ストーリーはとにかく二転三転、よくこんだけややこしくしたもんだと思うほど、「裏切者を探せ!」モード。まあだいたい想像がつくので、それが正解かどうかを確認するのも楽しいところ。シリーズをずっと見続けている観客には登場人物の性格がわかっているので、それぞれがそれぞれらしく働いてくれるのを見るのが楽しみであり、マンネリとも言えるパターンはむしろファンサービスというべきだろう。お約束のトム・クルーズ走りも見せてくれるし、ファンには嬉しいお馴染みのシーンが盛りだくさんにあって、よいねぇ。ただし、レベッカ・ファーガソンの美貌に陰りが見えたのが寂しい。レベッカ・ファーガソンカトリーナ・バルフが似ていると思うのはわたしだけでしょうか…

MISSION: IMPOSSIBLE - FALLOUT
147分、アメリカ、2018
監督・脚本:クリストファー・マッカリー、製作:トム・クルーズほか、原作:ブルース・ゲラー、撮影:ロブ・ハーディ、音楽:ローン・バルフェ
出演:トム・クルーズヘンリー・カヴィルヴィング・レイムスサイモン・ペッグレベッカ・ファーガソンショーン・ハリスアンジェラ・バセットヴァネッサ・カービーミシェル・モナハンアレック・ボールドウィン

マンマ・ミーア! ヒア・ウィ・ゴー

 エンドクレジットの後に爆笑の1カットがあるのでお見逃しなく。

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  かつて世界中を熱狂させたアバ(ABBA)の楽曲だけを使ってミュージカルを作り上げるという神業の物語を八年前に見たときには、心底驚いたと同時に中高年の生き直し賛歌を楽しんだものだったが、これがスケールアップして帰ってくるとは予想もしなかった。
 しかも今度は、前作のエンディング二〇年前の《過去》と、その後の《現在》を見せるという二重語りで物語に膨らみを与えた。過去と現在とのつながりもスムーズで、編集の妙が冴える。
 主人公はギリシャの小さな島でホテルを経営する若き女性、ソフィ。前作ではソフィの結婚式の前日と当日を描いていたが、本作ではソフィが改築したホテルの改装祝賀パーティの前日と当日が描かれる。ソフィの母であり前作の主人公だったドナは亡くなったという設定。母子家庭で育ってきたソフィには父親候補が三人いて、今回もまた勢揃いする。実父が誰かはDNA検査ですぐわかるはずだが、そんな野暮なことはしないのだ。ソフィには優しくてかっこいい父親が三人もついている。
 そして、母ドナの若き日が描かれ、ソフィの三人の「父親」とドナがどのように出会いソフィが生まれることになったのかを語る。若きドナを演じたリリー・ジェームズが愛らしくはじけていて、役柄にぴったり。登場するなりいきなり歌って踊り出すというサプライズもお見事。
 前作と同じ曲も流れるし、新たに選曲されたものもあり、どんなシチュエーションでどの曲がかかるかを予想するのも楽しみだ。同じ曲であっても全然違う演出で使われると、新たな意味が付加されていく。アバしばりという制限の中でこの驚くべきストーリー展開をよくぞ考え付いたものだ。
 前作でははしゃぎ回っていたのは中年の男女だったが、今度はぐっと若返って青春物語になっているので、幅広い観客層を狙えるだろう。個人的には、群舞で魅せる「ダンシングクイーン」の場面が超お薦め。試写会場で思わず踊り出しそうになった。そしてなんといっても圧巻は最後に登場するシェール。設定に無理やり感が満ちているが、大向こうのツッコミを跳ね飛ばす大迫力の歌唱にうっとりできる。
 歌、衣装、エーゲ海の風景、と映画的な見どころはたっぷりあり。そして、自立した女の苦闘を支えるのはやっぱり女。「使い捨て」にされる男たちには気の毒かもしれないが、その男たちが皆、ドナとソフィを愛しているというのがたまらなくいい話だ。
 ぜひとも前作を復習、いや予習されることをお勧めしたい。

MAMMA MIA! HERE WE GO AGAIN
114分、アメリカ、2018
監督・脚本:オル・パーカー、原案:リチャード・カーティスオル・パーカー、キャサリン・ジョンソン、撮影:ロバート・イェーマン、音楽:アン・ダッドリー、楽曲:ABBA
出演:アマンダ・セイフライドピアース・ブロスナンコリン・ファースステラン・スカルスガルドクリスティーン・バランスキージュリー・ウォルターズドミニク・クーパーリリー・ジェームズアンディ・ガルシア、シェール、メリル・ストリープ

ラブストーリーズ コナーの涙 / エリーの愛情

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 幼児を亡くしたことによって関係が崩壊し別れていく一組の夫婦の悲しい物語。愛し合いながらも心が離れていくのを止めようがない。そんな二人をそれぞれの立場から描いた別々の作品として完成させている。
 2作を1セットとして描くという試みはなかなか斬新だが、一つの話を複数の視点から描く手法じたいは珍しくない。これ、2作とも見ないと結論が変わってしまう可能性がある。そういう点では、ある「企み」がある作品だ。しかも、面白いことに同じ話を2回単純に繰り返すわけでもなく、夫しか経験していない場面、妻しか登場しない場面もあるし、二人が登場する同じ場面のはずでも微妙にセリフが異なっていたりして、男女の記憶の残り方が違うことが興味深い。これは男性・女性の特質ではなく、人は自分に都合のよいようにしか記憶を残さないという例なのだろう。
 そして、選択された記憶はすべて妻のエリナーが夫のコナーから離れていこうとする過程を描いている。つまり、別れたがっているのはエリナーであり、コナーはエリナーを追いかけて引きとどめようと懸命にあがく。この一方通行が悲しい。エリナーが一瞬コナーに戻りかけてもまた振り出しに戻り。エリナーはずっと精神が安定せず、悲しみの中にいる。その悲しみからの立ち直りのために大学へ復学したりするのだが、彼女の学問はそれじたいが目的ではないように見えて、そこがわたしには残念に思えた。
 コナーは小さいながらもレストランのオーナーであり、仕事は極めて不調だが、それでも社会的な関係性の中で生きている。一方エリナーが働いてる様子はうかがえず、どうやら彼女は学生時代に妊娠したため学業を断念し、そのまま主婦をしていた模様。男には仕事があり女には子育てしかない。そんなときに子どもを亡くせば、女には生きるよすががない。二人のすれ違いはこういう状況から生まれたのではないかと想像できる。
 ストーリーを時系列に追えばそれほど複雑な話でもないのだが、子どもの死因は描かれず、彼らの過去もそれほど詳しく語られないこの作品では、人物の来歴や心境は観客の想像に委ねられている。そして、暗い場面が多いため、見ているほうも陰鬱な気分になってくるのだが、音楽がけだるくも美しく、過去と現在が一瞬交錯する場面の編集も巧みで、引き込まれていく。


 エリナーの髪に注目。彼女の髪形は二度変わり、その3つの髪形パターンによってその時の心境と時間の経過を表している。ばっさり断髪した時のショートカットがおしゃれだった。「コナーの涙」を先に見て正解だったと思う。

 ところで本作は図書館映画の一つ。エリナーの妹は司書として図書館でバイトしている。エリナーが妹の職場を訪ねるシーンがあり、その図書館にはスタッフ用の休憩コーナーがあった。

 また、博物館への言及もある映画だ。エリナーは大学教授から、ケ・ブランリーミュージアムへ行くようにと勧められる。その場面での字幕が「ケ・ブランリー美術館」となっていたが、ここは「博物館」と訳すべきではないか。人類学の最先端の研究ができるという触れ込みなのだから、美術館ではなく博物館と訳してほしい。と、この映画を観た8月には思ったのだが、その後、実際にケブランリー・ミュージアムを訪れて納得したことは、ここがまさに美術館であるという事実だった。すばらしくプリミティブな魅力に満ちたミュージアムだった。大好きなミュージアムの一つになった、記念すべきケ・ブランリー美術館。(U-Next)。

THE DISAPPEARANCE OF ELEANOR RIGBY: HIM
95分、アメリカ、2013
監督・脚本:ネッド・ベンソン
製作:カサンドラ・クルクンディス、ネッド・ベンソン、ジェシカ・チャステイン、音楽:サン・ラックス
出演:ジェームズ・マカヴォイジェシカ・チャステインキアラン・ハインズビル・ヘイダー、ニナ・アリアンダ、ウィリアム・ハートイザベル・ユペール

THE DISAPPEARANCE OF ELEANOR RIGBY: HER
105分

 

春との旅

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 足を傷めて仕事ができなくなった老漁師が孫娘と一緒に旅に出る、というロードムービー。この老人がわがままで無教養でどうしようもない男だ。妻には先立たれ、娘にも死なれて孫の春と二人で北海道の寒村で生活していたが、その孫の勤務先である小学校が廃校となった。やむなく春は都会に出ることになり、残されることになった老人はきょうだいを頼って二人で旅に出ることとなるが、誰一人として彼を引取ってくれるきょうだいがいない。。。。


 脚本がうまい。仲代達矢爺さんが自立できないダメ男ぶりをいかんなく発揮していて、むしろ清々しい。こんな爺さん、だれも世話してやろうと思うまい。孫娘の春はまだ19歳で、そのうえ童顔でガニ股で歩くからまるで幼児に見える。徳永えりにこういう歩き方をさせた演出の意図を考えてしまったが、大人になれない二人組ということを強調しているのではなかろうか。
 二人の旅は身につまされるような貧乏旅行であり、彼らはずっと最初から最後まで同じ服装だ。着替えもないのか? ある時は道端のベンチで寝るような夜もある。いまどき携帯電話も持っていないのか、ホテルを探すのにかけずりまわるとは。仙台のような大都会なら駅前に観光案内所があるだろうに、そういうところを利用しようという知恵も働かない。この映画が東日本大震災の前に撮られているという点も興味深く、これが震災後だったら別の物語になったのではないかと興味深く思わせるものがある。
 春の面構えが素晴らしい。彼女はいつも怒りに満ちている。おじいちゃんに腹を立て、自分たちを捨てた父親に腹を立て、自殺した母親に腹を立てている。最後は自分に腹を立てていた。その場面が素晴らしかった。
 家族の絆というものの脆さや危うさも実感させられる。幼いころから共に過ごしたきょうだいだからこそ、よけいに過去の恨みつらみや憎しみが消えないのか、誰も仲代達矢の面倒を見てくれる者がいない。むしろ血のつながらない人間のほうが親切なのだ。それまでの人生をどのように生きてきたかで一生の最期が悲しいものになるかどうかが決まる、なにやら因果応報という言葉が浮かんでくるではないか。  
 この映画でいちばん感心したのは、料理が温かいままに出されていたことだ。麺類はちゃんと湯気が立ち、作り立てが提供されていることがわかった。これは演出上大変だったろうと思わせる。
 脇役が全員芸達者なので、それだけでも見ごたえがある。ただし、「この老人のような年寄りにだけはなるまい」と思わせる話なので、共感を以てこの映画を観ることは難しいかもしれない。(U-Next)

134分、日本、2009
監督・脚本:小林政広、製作:與田尚志、撮影:高間賢治、音楽:佐久間順平
出演:仲代達矢徳永えり大滝秀治菅井きん小林薫、田中裕子、淡島千景、長尾奈奈、柄本明、美保純、戸田菜穂香川照之

さよなら、人類

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 「散歩する惑星」「愛おしき隣人」に続く三部作の最終作。さすがに同じような話も三回目になると飽きる。ただし、相変わらずの画面作りへのこだわりには感動した。窓に執着する監督は、ほぼ全画面で窓を構図の中心に配置してその窓を通して不思議な人間模様を見せる。窓が映っていないときは奥行きのある構図を見せてどこか永遠な感じを演出する。
 この監督の画面は目を凝らしていないと隅のほうで何が起こっているか見過ごしてしまうから、一生懸命集中してしまうので、こんなに退屈な話なのに全然眠くならない! どれだけ退屈かというと、セリフの間合いがのんべんだらりと空いていて、全然面白くない「面白グッズ」を売る中年営業マン二人組が延々とくだらない商品の説明を繰り返し、フラメンコの女性教師は若い教え子にセクハラし、船長は船酔いに耐えられずに理髪師になるが、客に逃げられる。そういった場面の一切合切が悲しみに満ちた可笑しさを湛えているけれど、全然笑えない。 
 あまりにもオフビートが過ぎて何が言いたいのかさっぱりわからないし、18世紀の騎馬隊が突然カフェに現れる場面なんかもうコメディとか不条理とか通り越しているし、ロイ・アンダーソンなんだから、と最初から覚悟している観客すら唖然とさせる。

 
 三部作は全部順番に見ておかないとこの作品のオチも理解できない(いや、見ていても理解できない)から、どうせなら全部見ることをお勧め。しかし苦行ですなー。「愛おしき隣人」が一番面白かったかな。(U-NEXT)

EN DUVA SATT PA EN GREN OCH FUNDERADE PA TILLVARON
100分、スウェーデンノルウェー/フランス/ドイツ、2014
監督・脚本:ロイ・アンダーソン、製作:ペルニッラ・サンドストレム
出演:ニルス・ヴェストブロム、ホルゲル・アンデション